金曜日。ようやく一週間が終わる。
連日の緊張と暑さで、僕も透子も夕方には電池切れ寸前だった。体は重く、食欲も湧かない。でも、食べなければ戦えない。
「今日は、火を使いたくない気分だね……」
僕がキッチンで呟くと、透子がソファからゾンビのように手を挙げた。
「同意。でも、お肉は食べたい。……矛盾してるけど」
「わかった。じゃあ、茹でるだけで極上のやつにしよう」
僕は冷蔵庫から、薄切りの豚肉と、たっぷりの香味野菜を取り出した。
今夜は『豚肉と茗荷の香味おろしポン酢和え』だ。
鍋にお湯を沸かし、火を止めてから豚肉をくぐらせる。こうすることで肉が硬くならず、しっとりと仕上がる。
あとは、刻んだ茗荷(みょうが)、大葉、そしてたっぷりの大根おろし。
「……ん! 香りがもう、涼しい」
食卓に置かれた皿を見て、透子の目が少し輝いた。
ポン酢を回しかけ、全体を豪快に混ぜて口に運ぶ。
「美味しい……! 豚肉が柔らかくて、茗荷のシャキシャキが最高。生きて返った心地がするわ」
「お酢とビタミンB1は、疲労回復の最強タッグだからね」
冷えたビールを一口飲み、僕たちは顔を見合わせて笑った。
今週も、なんとか守り抜いた。
来週はいよいよ新月。潮里との接触が待っている。
不安はあるけれど、この美味しい豚肉の味が胃に落ちる感覚があるうちは、きっと大丈夫だ。
窓の外、夜風が少しだけ優しく吹いた。
信号は青。僕たちはまだ、歩き続けられる。
湊の金曜レシピ:茹でて和えるだけ「豚肉と茗荷の香味おろしポン酢」
コンロの前に立つ時間を最小限にしたい夜に。
余熱で火を通した豚肉は驚くほど柔らかく、食欲がない時でも箸が止まりません。
【材料】(2人分) * 豚バラ肉(またはロース)しゃぶしゃぶ用 … 200g * 大根 … 5cm(すりおろして軽く水気を切る) * 茗荷 … 2個(千切り) * 大葉 … 5枚(千切り) * カイワレ大根 … 1/2パック * ポン酢 … 大さじ3〜4 * ごま油 … 小さじ1 * 酒 … 大さじ1(茹でる用)
【作り方】 1. 野菜(茗荷、大葉、カイワレ)を切り、水にさらしてパリッとさせてから水気を切る。大根はおろしておく。 2. 鍋にたっぷりのお湯を沸かし、酒を入れる。一度沸騰したら火を止め、豚肉を数枚ずつ広げて入れ、色が変わるまで余熱で火を通す(これが柔らかさの秘訣!)。 3. 茹でた豚肉をザルに上げ、そのまま冷ます(水っぽくなるので水にはさらさない)。 4. ボウルに豚肉、野菜、大根おろしを入れ、ポン酢とごま油を加えてざっくり和える。 5. 器に盛り、好みで七味やラー油をかけても美味しい。
【湊のひと言】 「豚肉をグラグラ煮立たせないこと。これだけで、お店のような食感になります。ごま油を少し足すと、酸味がまろやかになって満足感が増しますよ」