現像
Photo by Codrin Rusu (Pexels) 1. もう一度 図書館の資料は、思ったほど役に立たなかった。 2000年代前半の汐見の写真はあったけど、被写体の女性に近い人は、町報のどこにも写っていなかった。 当然といえば当然だ。 町報に載るのは、町内会のお祭りとか、…
Photo by Varvara Galvas (Pexels) 1. 机の上の13枚 部屋に戻って、まず写真を並べた。 机の上に、12枚を二列に並べる。 最後の1枚は、なんとなく端に置いた。 あの女性が遠くを見ている、あの一枚だ。 他の写真と一緒に並べるのが、どうしても気が引けた。 …
Photo by Kouji Tsuru (Unsplash) 1. 毎日のように 夏休みは、思ったよりすぐ「日常」になった。 朝起きて、母の食堂の残り物の味噌汁を飲んで、カメラと封筒を持って家を出る。 町を歩いて、写真の場所をひとつずつ確かめる。 昼前に図書館に寄ると、夕がい…
Photo by Bruce Barrow (Unsplash) 1. 着いたけど 着いたけど どこにいんの 健太からLINEが来たのは、昼過ぎだった。 「着いたけど」と言われても、こっちは何も聞いていなかった。 来るとも、行くとも、誰も決めていなかった。 俺は布団の上に座ったまま、…
Photo by Leongsan (Unsplash) 1. 変な人 「なんで」と夕は言った。 俺は、息を吸って、答えた。 「なんでって言われると——」 うまい言葉が、出なかった。 「写真を現像したのが、自分だから、ですかね」 たぶん、答えになっていなかった。 言いながら、自分…
Photo by Rafael Garcin (Unsplash) 1. 翌日 翌日、図書館に行った。 受付に夕はいなかった。 代わりに、田所さんが座っていた。 たぶん、ずっと前から夕の上司として働いている、五十代くらいの司書さんだ。 一度も話したことはなかったけれど、夕がよく「…
Photo by Rino Adamo (Pexels) 1. 打ち上げ ドン、ドン、ドン、と三発、続けて上がった。 それからすこし間があって、ヒュー——、と細い音が空をのぼっていって、開いた。 たぶん、あれが「あ、いま始まったんだ」と知らせる合図だ。 防波堤に、ぱらぱらと人…
Photo by Ahmet Yüksek (Unsplash) 1. 浜辺 朝七時に家を出た。 まだ涼しい時間帯で、商店街もシャッターが半分くらいしか開いていなかった。 子供のころと同じ道を、子供のころと同じ歩幅で歩いていく感じが、すこしだけ気持ち悪かった。 体の大きさは変わ…
Photo by Aperture Vintage (Unsplash) 1. 最後の1枚 封筒の中身を全部取り出したとき、最後の1枚だけ裏返しになっていた。 偶然だと思う。 でも、表に返した瞬間——なぜか息が止まった。 笑っていない。 12枚の写真に写っていた女性は、ずっと笑っていた。 …
Photo by Aperture Vintage (Unsplash) うちは、駅前の写真屋だ。もうすぐ四十年になる。 現像の注文は、この十年でずいぶん減った。いまどきの客は、スマホの中に何千枚も写真を持っていて、プリントするのは年賀状と、履歴書と、あとは誰かが死んだときの…