YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

誤読

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天声人誤 第3回 親衛動画

親会社の決裁を半年待つ、創業六十年の菓子屋。その週の深夜、中村悟は録画したアニメ『これ描いて死ね』の制作会社を調べて起き上がる。テレビ朝日の完全子会社が作ったアニメが、日本テレビの枠で流れていた。子離れの話。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第6回 天井

「もはやシーリングと呼ぶべきものはありません」。財務大臣の会見を読んだ中村悟は、部屋の電気がシーリングライトであることに思い当たる。四十七年目に、予算と家電の棚が一つ繋がった。消えた言葉を数える回。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第1回 はじめに、誤っておく

東京都飽留野市は、役所の書き違いから生まれた街だと伝えられている。タウン誌記者・中村悟は、市の標語「飽きない街、飽留野」を掛詞だと信じて疑わない。天の声は、届くまでに必ず歪む。歪んだまま書く、と決めた一回目。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第22回 印

締切明けの原稿を、AIに校正させた。その晩、Claudeの出す文章に目に見えない透かしが入るというニュースを読み、中村悟の腰が浮く。校正でも、付く。自分で書いた原稿は、誰が書いたことになるのか。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第31回 餓鬼

経済紙の見出しに「ドパガキ」とあった。妖怪かと思った中村悟は、ウェブ版の会社紹介を煽り記事に書き直そうとする。「【衝撃】」も「(この後、衝撃の展開が!)」も書いてはみた。だが、書けないことは書けない男である。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第4回 うちがやることか

あるアニメ化に批判が集まった件で、中村悟は企画書を書き、「表現と配慮のあいだ」と見出しを付けた。編集長の問いは短かった。「読んだの、その漫画」。答えられなかった男が、捨てた企画書について書く。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第5回 想定外

食料品の消費税ゼロにレジのメーカーが反対した、という話があった。社名まで並んだその話を信じて、中村悟は十分間憤慨する。元の記事を探すと、社名は一つも無かった。書いてあったのは、改修にかかる期間だけである。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第12回 乗り換え

WOWOWの加入者が、八年弱で八十万人以上減っていた。心配になって調べた中村悟は、利益が計画を超えていると知って、心配の行き先を見失う。スカパーは宇宙で稼ぎ、ドコモは金を扱うほうへ寄っていた。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第19回 前の日

山の日の趣旨は、祝日法に一行しかない。何に感謝すればいいのかも書かれていない。薄い祝日だと思って由来を調べた中村悟は、当初の案が八月十二日だったことを知る。一九八五年のその日のことを、事実だけで書く。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第30回 自称

ヘボコンの規定には、自分で実装した機能でも「うまく動いていない場合は、減点されない」とある。これは俺の大会だ、と思った中村悟は、すぐに間違える。ヘボいかどうかは、自分では決められなかった。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第33回 長袖

九月十日、多摩は前の日より九度も冷えた。半袖でトリシティに乗り、帰って押入れから長袖を出した中村悟は、「夏が終わった」とノートに書きかけて手を止める。気象庁の数字を並べると、夏は行ったり来たりしていた。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第2回 呼ばれた気がした

就職氷河期世代を対象にした国家公務員の中途採用試験。その対象の生まれ年に、一九七九年生まれの中村悟も入っていた。呼ばれた、と思って姿勢を正したが、続きを読むと採用予定は百七十九人だった。締切明けの夜の話。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第10回 縁

一ドル百六十三円をつけた日、中村悟は二か所を回った。午前は、小麦も油も上がりっぱなしの菓子屋。午後は、部品の七割が海を渡る金属加工の工場。同じ円安で、午前と午後の顔がまるで違った。報道が映さないほうの顔の話。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第14回 六時半

十年作ってきた「市内のラジオ体操会場一覧」で、会場が減っていた。最近の子はやらないのか、と調べた中村悟は、理由の並びを見て黙る。同じ日、甲子園の開会式は午後四時に始まる。夏の朝が、両側から空いていく。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第15回 ぶっつけ

八王子まつりの初日。一度も見ないまま紹介記事を書いた中村悟は、資料で二つのことに引っかかる。千貫みこしは、計算すると千貫に足りない。そして山車が囃子を競う「ぶっつけ」には、勝敗を決める仕組みがどこにも無かった。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第16回 行き先

心霊スポット企画の二か所目へ向かう夜。工事を避けて旧道へ折れた中村悟は、屋根もベンチもないバス停の下に、人が立っているのを見る。夜十時。その人は、時刻表のほうを向いていた。夏の怪談企画の二回目。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第18回 拾得

駅前で財布を拾い、中を数えずに交番へ届けた。外国の方の落とし物も増えていると聞いた中村悟は、外国の人はよく落とすのだな、と納得して帰る。調べると、都内で一年に届けられた落とし物は四百五十三万件を超えていた。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第23回 無反応

蚊に刺された腕が、一時間で引いた。子どもの頃は三日腫れたのに、と中村悟は年のせいにしかけ、「近ごろの子は刺されないから免疫が弱い」という話にも納得しかける。調べると、あのかゆみは免疫が働いている証拠だった。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第26回 訂正

「中村くん、苦情が来てる」。内容を聞かされるまでの三十分、中村悟は自分の書いたもの全部を疑い、誠実さとは何かを考える。考えるほど、連載の一回目に書いた「訂正はしない」が、自分でもうまく立たなくなっていく。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第27回 百九十八年

京都府出身の新三役は、百九十八年ぶり。電卓で文政十一年にたどり着いた中村悟は、藤ノ川というしこ名にも百四十九年の歴史があると知り、上がったのが人なのか名前なのか、分からなくなる。秋場所の番付発表の朝。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第29回 六月二日

梅雨の確定値が出て、関東甲信の梅雨入りは五日さかのぼった。六月二日、中村悟は晴れた空の下で屋根のないプールを取材していた。あの日は、いま、梅雨である。東京と新潟の八月を並べて、体感と統計のずれを数える回。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第34回 初日

秋場所が始まる。先月、一つの昇進を三通りに数えていた中村悟は、初日の取組表を見て思い込みに気づく。関脇は初日から横綱と当たるわけではなかった。番付は、順番ではない。数えるのは終わり、ここからは数えられる側になる。架空の街のタウン誌記者の手…

天声人誤 第32回 頭数

中道改革連合が、議員を一人だけ残して党を存続させる。四月に落選者支援の月四十万円に腹を立て、そのまま忘れていた中村悟は、今度は政党交付金の仕組みを調べる。怒れたのは、なぜその党だけだったのか。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第28回 いっせいに

締切前の晩、原稿の校正が通らなかった。AIが三つ、同じ夜に止まっていたと知って、中村悟は示し合わせたな、と思う。原因は公表されていない。校正の使えない三時間、読み返した原稿からは誤字が一つも見つからなかった。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第25回 枕詞

新潟の水原まつりで、十八歳の高校生が亡くなる事故があった。記事に並んだ「伝統の祭で」という五文字に、中村悟は引っかかる。自分もタウン誌で「伝統の」と何度も書いてきた。原因は調査中で、知らないことは書かない。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第24回 三番目

心霊スポット企画の四か所目は、峠道の三番目のカーブ。夜十一時に行って、何も起きなかった。一回目のあと編集長に「四回目に書きなよ」と言われた説を、中村悟はここで書く。四か所を回り終えた、夏の怪談企画の完結編。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第21回 宮ノ下

路線バスの減便を取材した昼、旧道沿いの集落で七十いくつの男性に話を聞いた。バス停の名前を挙げてもらううち、中村悟の手が止まる。あの夜、人が立っていたバス停には、名前があった。夏の怪談企画の三回目。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第20回 マスク

オーストラリアの首相が、高市首相から贈られたメロンの話をして、議会で侮辱だと取り上げられた。豪政府は、そういう意味で言ったのではないと説明している。誤読で連載を書いてきた中村悟が、意味は誰のものかを考える。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第17回 一秒

取材で会った信用金庫の支店長は、若く見えたが来年定年だった。童顔が増えたのではと調べた中村悟に、論文は百年と二千年の話ばかり返してくる。行き着いたのは、人は顔を見て一秒で有能かどうかを決める、という研究だった。架空の街のタウン誌記者の手記。

天声人誤 第13回 三十五センチ

七月二十八日、熊本で震度七の地震があった。避難所に段ボールベッドが届いたという記事を読んで、中村悟は東京オリンピックの選手村を思い出す。順番は逆だった。遠くで新聞を読んでいるだけの男が、調べたことだけを書く。架空の街のタウン誌記者の手記。