YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

AI小説

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天声人誤 第3回 親衛動画

「うちはね、中村さん、稟議書を東京に送るんですよ」 飽留野の外れにある工場の応接室で、専務がそう言った。創業六十年の菓子屋である。地元では名の知れた店で、数年前に都心の大きな会社に買われた。いまはその会社の、何番目かの子会社ということになっ…

天声人誤 第6回 天井

「もはやシーリングと呼ぶべきものはありません」 七月三十日、片山財務大臣が記者会見でそう言った。来年度の予算の、概算要求基準についての発言である。 www.mof.go.jp シーリングというのは、各省庁が予算を要求するときの上限のことだ。ここまでにして…

天声人誤 第1回 はじめに、誤っておく

午前六時の飽留野は、まだ誰にも誤解されていない。 山から下りてくる空気は冷たく、国道はまだ空いている。ヘルメットを被ると、世界から音が半分持っていかれる。残った半分で物事を判断することになるのだが、俺の場合、その半分がだいたい間違っている。…

天声人誤 第22回 印

締切明けの原稿を、AIに校正させた。 誤字を拾ってもらっただけである。中身は変えていない。「てにをは」が二か所と、同じ語尾が三回続いていたのを直された。ありがたい話だと思って、そのまま入稿した。 その晩、ニュースを見て、手が止まった。 * Anthr…

第76話:社内会議という名の法廷(青の糸)

月曜日の朝。透子は、いつもより三十分早く家を出た。 カバンの中には、週末を削って書き上げた新しいコンセプト案が入っている。タイトルは「記憶を継承する街」。それは、デベロッパーが求める「未来への疾走」を、あえて「過去への眼差し」に書き換えると…

第4話「岩礁」

Photo by Codrin Rusu (Pexels) 1. もう一度 図書館の資料は、思ったほど役に立たなかった。 2000年代前半の汐見の写真はあったけど、被写体の女性に近い人は、町報のどこにも写っていなかった。 当然といえば当然だ。 町報に載るのは、町内会のお祭りとか、…

第14話「明けない夜はない」

1. 六月の終わり 六月が終わろうとしてる。 梅雨も、そろそろ明けそう。 空に、入道雲が見え始めた。 「暑くなってきたね」 「もうすぐ七月ですもんね」 「期末テスト、やばい」 生徒たちが、夏の話をしてる。 佐藤さんも、教室にいる。 まだ少し元気がない…

第15話「備えあれば憂いなし」

1. 期末テスト週間 七月に入った。 期末テストが近づいてきた。 教室の空気が、少し変わった。 いつもは賑やかな生徒たちが、ちょっと静かになってる。 「やばい、全然勉強してない」 「俺も。どうしよう」 「一夜漬けするしかないか...」 焦ってる声が聞こ…

天声人誤 第4回 うちがやることか

「中村くん、それ、うちでやることかな」 編集長がそう言ったので、俺は手を止めた。 * その朝、俺は企画書を一枚書いていた。『みいちゃんと山田さん』という漫画のアニメ化に、批判が集まっている件である。 七月二十六日に発表され、放送は二〇二七年。…

天声人誤 第5回 想定外

その話を最初に見たとき、俺は完全に信じた。 食料品の消費税をゼロにする案があった。それに反対したのはレジのメーカーだ、という話である。社名まで並んでいた。三社だか四社だか、誰でも知っている名前だった。 「なんでやねん」 畳の上で声が出た。庶民…

天声人誤 第12回 乗り換え

編集部には、新聞が三紙来る。 テレビ欄から読むのはいつものことだが、その日はめくった手が経済面で止まった。WOWOWの決算が出ていた。加入者が減っている、という話である。 俺は、少し心配になった。 配信に振られ続けている男が、放送の心配をしている…

天声人誤 第19回 前の日

今日は山の日である。 飽留野は山に囲まれている。市街を外れて十五分も走れば峠の入口で、そこから先はどこまでも山が続く。東京都だが、山のほうがずっと多い。 その山の日について、俺は何も知らなかった。祝日の名前を知っているだけである。恥ずかしな…

第50話:衆人環視の針

水曜日の朝。図書室の入り口に、昨夜まではなかった「落とし物」があった。 それは丸められた一枚のチラシで、再開発計画の華やかな完成予想図の上に、太いマジックで『邪魔をするな』とだけ書かれていた。 説明会での僕の発言は、どうやら一部の住民にとっ…

第122話:七月の終わり、苦味を噛み締める

金曜日。七月の最後の日が、こんなにも重苦しい夜になるとは思わなかった。 テーブルの上には、あの盗撮写真が裏返しに置かれている。 葛西という男が置いていったそれは、単なる紙切れではない。「お前たちの生殺与奪の権は、我々が握っている」という無言…

第144話:冷たい方程式、引き分けという名の地獄

土曜日。朝が来ても、昨夜の緊張がまだ肌に張り付いている。 昨晩八時、葛西は時間通りに現れた。 彼は図書室の古びた木の椅子に座っても、その高級スーツの折り目ひとつ崩さなかった。 「……単刀直入に言いましょう」 葛西は、例の盗撮写真──僕たちが不法侵…

第2話「帰省」

Photo by Varvara Galvas (Pexels) 1. 机の上の13枚 部屋に戻って、まず写真を並べた。 机の上に、12枚を二列に並べる。 最後の1枚は、なんとなく端に置いた。 あの女性が遠くを見ている、あの一枚だ。 他の写真と一緒に並べるのが、どうしても気が引けた。 …

第5話「似ている」

Photo by Kouji Tsuru (Unsplash) 1. 毎日のように 夏休みは、思ったよりすぐ「日常」になった。 朝起きて、母の食堂の残り物の味噌汁を飲んで、カメラと封筒を持って家を出る。 町を歩いて、写真の場所をひとつずつ確かめる。 昼前に図書館に寄ると、夕がい…

第6話「乱入」

Photo by Bruce Barrow (Unsplash) 1. 着いたけど 着いたけど どこにいんの 健太からLINEが来たのは、昼過ぎだった。 「着いたけど」と言われても、こっちは何も聞いていなかった。 来るとも、行くとも、誰も決めていなかった。 俺は布団の上に座ったまま、…

第1話「一期一会」

1. 桜の校門 四月。 桜が満開だった。 新しいスーツに身を包んで、校門をくぐる。 心臓がバクバクしてる。 大丈夫かな。 私、ちゃんとやれるかな。 「瀬良美咲、二十三歳。今日から、ここで働くんだ」 自分に言い聞かせる。 深呼吸。 職員室に向かう廊下。 …

第7話「同じ釜の飯を食う」

1. 出発の朝 修学旅行当日。 朝五時半に起きた。 集合は七時。 遅刻するわけにはいかない。 「忘れ物、ない...よね」 しおり、カメラ、着替え、薬。 何度も確認した。 学校に着くと、もう生徒たちが集まってた。 テンション高い。 まだ朝なのに、元気だな。 …

第19話「蒔かぬ種は生えぬ」

1. 夏休み初日 夏休みが始まった。 朝、ゆっくり起きた。 いつもより二時間遅い。 「なんか、変な感じ」 学校に行かなくていい朝。 嬉しいような、物足りないような。 窓を開けると、夏の日差しが眩しい。 セミの声が聞こえる。 さて、今日は何をしようかな…

第20話「若い時の苦労は買ってでもせよ」

1. 夏の部活 八月上旬。 夏休みも、もう二週間が過ぎた。 今日も暑い。 朝から三十度を超えてる。 「暑い...」 学校に向かいながら、汗を拭いた。 夏休み中も、部活指導で学校に来ることがある。 今日は、バスケ部の練習試合の引率だ。 英語部の顧問だけど、…

第22話「初心忘るべからず」

1. 帰省 お盆休み。 実家に帰省した。 電車を乗り継いで、三時間。 久しぶりの実家。 「ただいま」 「おかえり、美咲」 お母さんが、玄関で迎えてくれた。 「元気そうね」 「うん。元気だよ」 「ちゃんと食べてる?」 「食べてるよ」 お母さんの心配性は、相…

水曜日を待つ人たち -第1話「立ち止まる理由」-

三月十一日、水曜日。 午後七時を過ぎたオフィスで、芹沢明日香はまだ画面を見つめていた。 「企画書(修正版・第三稿)」というファイル名が、今日三度目の会議での言葉を思い出させる。「コンセプトが弱い」「もう一回考えてきて」——上司の言葉は短かった…

天声人誤 第2回 呼ばれた気がした

締切が明けた夜は、何もする気が起きないのに、なぜかニュースだけは開く。 風呂も入らず、畳の上に寝転がったまま、親指で世の中をめくっていく。褒められた習慣ではない。ただ、一日の終わりに世界の様子を確認しておかないと、自分がいまどのあたりにいる…

天声人誤 第14回 六時半

毎年この時期に、うちのウェブ版には「市内のラジオ体操会場一覧」が載る。 誰が読むのかと思うが、これが案外読まれる。町内会から会場と日程が上がってきて、俺がそれを表に組み直す。十年やっている、夏の定番である。 今年、表を作りながら、去年のファ…

天声人誤 第15回 ぶっつけ

今日から、八王子まつりである。 ウェブ版に短い紹介を載せた。飽留野からは電車で三十分ほど、取材圏の内である。ただし俺は、一度も見たことがない。見ていないものの紹介を書いたことになる。 そのぶん、資料はよく読んだ。読んでいて手が止まった話が、…

天声人誤 第16回 行き先

二か所目は、沢井原のドライブイン跡にした。 国道沿いに、看板だけが残っている。建物は窓が抜け、駐車場の白線は消えかけ、自販機の跡地に四角い日焼けが残っている。廃業したのは十年以上前だと聞いた。 地元では「出る」ということになっている。何が出…

天声人誤 第18回 拾得

駅前で財布を拾った。 黒い二つ折りで、券売機の下に落ちていた。中を検めるのは気が引けたが、身元が分かるものがあるかもしれない。開けたら、紙幣が何枚か入っていた。数えていない。数えたら負けだと思った。 交番に届けた。 * 書類を書いていると、若…

天声人誤 第23回 無反応

夜中に原稿を書いていて、腕を刺された。 ぴしゃりとやったが、逃げられた。刺されたところが赤く小さく盛り上がって、少しかゆい。かいた。一時間ほどで、何ごともなかったように引いた。 ……こんなものだったか、と思った。 * 子どものころは、こうではな…