YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

第10話「雨だれ石を穿つ」

1. 梅雨入り

六月。

梅雨入りした。

毎日、雨。
じめじめして、気分も沈みがち。

「今日も雨か...」

傘を差して、学校に向かう。
水たまりを避けながら歩く。

学校に着くと、生徒たちも濡れてた。

「おはようございます、サラ先生」
「おはよう。濡れなかった?」
「ちょっと濡れました...」

生徒たちが、タオルで髪を拭いてる。
梅雨は、みんな大変だな。

2. じめじめ教室

三年二組の授業。

教室に入ると、空気がじめじめしてる。
窓を開けても、湿気が入ってくるだけ。

「暑い...」
「じめじめする...」
「早く夏休み来ないかな...」

生徒たちが、だるそう。
気持ちは分かる。

「今日は、受動態の復習をします」

授業を始めたけど、生徒たちの反応が鈍い。
梅雨のせいかな。

「受動態は、be動詞+過去分詞で作ります」

黒板に書きながら説明する。
ふと、窓際を見た。

南雲くんが、いる。
珍しい。授業に出てる。

「南雲くん、今日は授業に出てるね」
「プールの授業があるから」
「え、それ関係ある?」
「プールの後は涼しいから、教室にいても苦じゃない」

なるほど。
南雲くんなりの理由があるんだ。

3. プールの授業

体育の時間、プールの授業があった。

私は英語科だから、プールの授業は見学だけ。
プールサイドで、他の先生と話してた。

「瀬良先生、泳げる?」
「一応、泳げます」
「シアトルでも泳いでた?」
「はい。湖とかで」

新井先生が、生徒たちを見てる。
体育担当だから、忙しそう。

「南雲、ちゃんと泳げよ!」
「はーい」

南雲くんが、ダラダラと泳いでる。
でも、フォームは綺麗。
運動神経、悪くないのかも。

蓮くんは、速い。
クラスで一番くらい。

「難波、いいぞ!」
「ありがとうございます!」

蓮くんが笑ってる。
水の中だと、楽しそうだな。

4. 傘を忘れた生徒

放課後、雨が強くなった。

職員室にいたら、生徒が来た。
一年生の女子。

「先生、傘を忘れちゃって...」
「え、大変。どうする?」
「バス停まで走ろうかなって...」

外を見ると、土砂降り。
走ったら、びしょ濡れになる。

「私の傘、使う?」
「え、いいんですか?」
「うん。明日返してくれればいいから」

傘を渡した。
生徒が、嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます!」
「気をつけてね」

生徒が帰っていった。

「瀬良先生、自分はどうするの」

山田先生が言った。

「あ...」

傘、渡しちゃった。
どうしよう。

「ほら、私の傘貸してあげる。私は車だから」
「すみません...」
「いいのいいの。優しいね、瀬良先生」

山田先生が笑った。

5. 蓮くんとの会話

帰り支度をしてたら、蓮くんが来た。

「先生、傘貸したんですか?」
「え、見てたの?」
「はい。一年生の子、喜んでましたよ」
「そう?良かった」

蓮くんが、少し笑った。

「先生、自分はどうするんですか」
「山田先生に借りた」
「良かったです。濡れて帰るのかと思いました」

蓮くんが、窓の外を見た。

「雨、嫌いですか?」
「うーん、嫌いじゃないけど、じめじめするのは苦手かな」
「俺は、雨の音が好きです」
「へえ」
「なんか、落ち着くんですよね」

蓮くんが、少し遠い目をした。

「雨の日は、家にいることが多いから。咲良と一緒に、雨の音を聞いてます」
「素敵だね」
「そうですかね」

蓮くんが照れた。

この子は、本当に優しいな。

6. 岩崎先生の言葉

職員室で、岩崎先生と話した。

「梅雨は、生徒たちも落ち着かない時期だ」
「はい。授業中も、だるそうで」
「仕方ない。人間も、天気に左右される」
「そうですね」

岩崎先生が、窓の外を見た。

「『雨だれ石を穿つ』という言葉がある」
「はい」
「雨だれが、石に穴を開ける。小さな力でも、続ければ大きな結果になる」
「...」
「梅雨の時期は、派手なことはできない。だが、地道な努力を続ける時期だ」
「地道な努力...」
「授業も、生徒との関係も。毎日少しずつ、積み重ねろ」

岩崎先生の言葉が、心に響いた。

「はい」
「焦るな。結果は、後からついてくる」

岩崎先生が去っていった。

雨だれ石を穿つ。
小さな努力を、続けること。
それが、大事なんだ。

7. 商店街で

帰り道、商店街を通った。

「あら、先生」

やおふくのおばちゃんが声をかけてきた。

「こんにちは」
「雨の中、大変ね」
「そうですね」
「でも、野菜には恵みの雨だよ。トマトが美味しくなる」
「へえ」
「雨も、悪いことばかりじゃないってことさ」

おばちゃんがトマトをくれた。

「これ、持っていきな」
「いいんですか」
「梅雨を乗り切る栄養だよ」
「ありがとうございます」

おばちゃんが笑った。

雨も、悪いことばかりじゃない。
そうかもしれないな。

8. アパートにて

アパートに帰った。

おばちゃんにもらったトマトを食べた。
美味しい。甘い。

窓の外を見ると、まだ雨が降ってる。
しとしとと、静かな雨。

蓮くんは、雨の音が好きって言ってた。
確かに、落ち着く音かもしれない。

スマホを見た。
エミリーからメッセージが来てた。

『How's the rainy season?』

返事を書いた。

『Rainy every day. A bit depressing.』

『Seattle is also rainy. I'm used to it.』

『True. But Japanese rain is more humid.』

『Hang in there!』

エミリーの言葉に、少し元気が出た。

9. 佐藤さんのこと

ふと、三年二組の佐藤さんのことを思い出した。

最近、元気がない気がする。
授業中も、ぼんやりしてることが多い。

気のせいかな。
でも、気になる。

明日、様子を見てみよう。

窓の外の雨を見ながら、そう思った。

10. 次の日

次の日も、雨だった。

学校に着くと、生徒たちがいつも通り挨拶してくれた。

「おはようございます、サラ先生」
「おはよう」

三年二組の教室を覗いた。
佐藤さんがいた。

「佐藤さん、おはよう」
「...おはようございます」

返事はしてくれた。
でも、笑顔がない。
やっぱり、何かあるのかな。

蓮くんが近づいてきた。

「先生、佐藤のこと、気になりますか」
「うん、ちょっと」
「俺も、気になってます」
「何かあったの?」
「分かりません。でも、最近様子がおかしいんです」

蓮くんも、気づいてるんだ。

「見守っててね」
「はい」

雨だれ石を穿つ。
小さなことでも、続けること。
佐藤さんのことも、見守り続けよう。

11. 梅雨の日々

梅雨の日々が続いた。

毎日、雨。
じめじめ。
でも、少しずつ慣れてきた。

授業も、淡々と続ける。
生徒たちとの会話も、毎日少しずつ。

「先生、今日の授業分かりやすかったです」
「ありがとう」
「先生の発音、カッコいいですね」
「そう?嬉しいな」

小さな積み重ね。
それが、大事なんだ。

佐藤さんのことは、まだ分からない。
でも、見守り続ける。
いつか、分かる時が来るかもしれない。

12. 雨上がり

ある日の夕方、雨が上がった。

窓の外を見ると、虹が出てた。

「わー、虹だ!」

生徒たちが、窓に駆け寄る。

「きれい!」
「写真撮ろう!」

みんな、嬉しそう。

雨が続くと、晴れた時の喜びが大きい。
梅雨も、悪くないのかもしれない。

佐藤さんも、虹を見てた。
少しだけ、笑ってた。

良かった。
笑顔、久しぶりに見た気がする。

雨だれ石を穿つ。
小さな努力を、続けよう。
いつか、石に穴が開く日が来る。

それを信じて、明日も頑張ろう。

六月の日々は、静かに過ぎていく。


次回「口は禍の元」は2026年6月3日(水)公開予定です。