YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

第13話「情けは人の為ならず」

1. 蓮くんの通い

蓮くんが、二日に一度くらい、佐藤さんの家を訪ねてくれている。

プリントを届けるという名目で。
でも、本当は話を聞きに行ってるんだと思う。

「先生、佐藤、少しずつ元気になってきてます」
「本当?」
「はい。最初は顔も見せてくれなかったけど、昨日はちゃんと話してくれました」
「良かった...」

蓮くんの行動が、佐藤さんを変え始めてる。
私にできなかったことを、蓮くんがやってくれてる。

「蓮くん、ありがとう」
「別に、俺がやりたくてやってるだけですから」

蓮くんが、少し照れた顔をした。

2. クラスの変化

三年二組の空気が、少しずつ変わってきた。

「佐藤、どうしてるかな」
「難波が会いに行ってるんでしょ」
「うん。少し元気になってるらしいよ」
「良かった」

生徒たちが、佐藤さんのことを心配してる。
分断されてたクラスが、少しずつまとまってきた。

高橋さんも、変わってきた。
俯いてばかりだったのが、少し顔を上げるようになった。

「先生、私も佐藤に会いたいです」
「会えるかな」
「分かりません。でも、謝りたいんです。直接」
「...」
「逃げたくないです」

高橋さんの目に、覚悟が見えた。

3. 岩崎先生との会話

職員室で、岩崎先生と話した。

「難波は、よくやっている」
「はい。私より、よっぽど」
「お前は、自分を卑下するな」

岩崎先生が言った。

「難波が動けたのは、お前が土台を作ったからだ」
「私が?」
「佐藤に、最初に声をかけたのはお前だ。話を聞いたのも、メッセージを送り続けたのも」
「...」
「お前がいたから、難波も動けた。忘れるな」

岩崎先生の言葉が、胸に染みた。

「『情けは人の為ならず』という言葉がある」
「はい」
「人にかける情けは、巡り巡って自分に返ってくる。難波が佐藤にかけた情けは、いつか難波自身に返ってくるだろう」
「...」
「お前がかけた情けも、だ」

岩崎先生が、少し笑った。
珍しい。

「良い教師になれるかもしれんな、お前は」
「...ありがとうございます」

4. 高橋さんの謝罪

高橋さんが、佐藤さんの家を訪ねた。

蓮くんが付き添って。

私は、学校で待ってた。
どうなるか、心配で。

夕方、蓮くんから連絡が来た。

「先生、高橋が謝りました」
「どうだった?」
「佐藤、最初は会いたくないって言ってました」
「うん」
「でも、高橋が玄関で土下座して」
「え」
「『本当にごめんなさい』って、泣きながら」
「...」
「佐藤、出てきてくれました。二人で、泣きながら話してました」

良かった。
高橋さんが、ちゃんと向き合えた。

「佐藤、『許せないけど、謝ってくれてありがとう』って言ってました」
「そう...」
「すぐに元通りにはならないと思います。でも、一歩、進めたと思います」
「ありがとう、蓮くん」

電話を切って、涙が出た。

5. 雨上がり

次の日、雨が上がった。

久しぶりの晴れ。
空が、青い。

学校に行くと、生徒たちが元気だった。

「晴れた!」
「やっと梅雨明けかな」
「まだ早いんじゃない?」

教室の窓から、青空が見える。
気持ちいい。

「先生、今日は晴れてますね」

蓮くんが言った。

「うん。気持ちいいね」
「佐藤も、来週くらいから学校来るかもしれないです」
「え、本当?」
「昨日、そう言ってました。まだ怖いけど、頑張ってみるって」

嬉しい。
すごく、嬉しい。

6. 南雲くんの言葉

昼休み、珍しく南雲くんが話しかけてきた。

「先生」
「どうしたの、南雲くん」
「佐藤のこと、大変だったな」
「うん...」
「難波、頑張ってたな」
「うん。蓮くん、すごいよね」

南雲くんが、窓の外を見た。

「俺には、ああいうのできない」
「そう?」
「人の気持ちとか、よく分かんないし」
「...」
「でも、難波みたいなやつがいてよかった」

南雲くんが、少し笑った。

「先生も、頑張ってたな」
「私は、何もできなかったよ」
「そうか?俺から見たら、頑張ってたけど」
「...ありがとう」

南雲くんは、見てないようで見てるんだな。

7. 佐藤さんの復帰

六月も終わりに近づいた頃。

佐藤さんが、学校に来た。

教室に入ってきた時、一瞬、空気が止まった。
みんなが、佐藤さんを見てる。

「おはよう、佐藤」

蓮くんが、最初に声をかけた。

「おはよう...」

佐藤さんが、小さく返事した。

「おかえり」
「...ただいま」

他の生徒たちも、声をかけ始めた。

「佐藤、大丈夫?」
「無理しないでね」
「何かあったら、言ってね」

佐藤さんの目に、涙が浮かんでる。

高橋さんが、近づいてきた。

「佐藤、おかえり」
「...うん」
「改めて、ごめんね」
「...うん」

まだ、ぎこちない。
でも、一歩、前に進んでる。

8. 私にできたこと

放課後、佐藤さんと話した。

「学校、どうだった?」
「...怖かったです。最初は」
「うん」
「でも、みんなが声をかけてくれて」
「良かったね」
「先生」
「うん」
「ありがとうございました」

佐藤さんが、頭を下げた。

「先生がメッセージをくれなかったら、私、もっと長く引きこもってたと思います」
「...」
「返事できなかったけど、読んでました。嬉しかったです」
「そう...良かった」

私にできたこと。
小さなことだったかもしれない。
でも、届いてたんだ。

「難波くんも、ありがとうって伝えてください」
「うん。伝えるね」
「難波くんがいなかったら、私、学校に来れなかったです」

佐藤さんが、少し笑った。

9. 蓮くんへの感謝

蓮くんに、佐藤さんの言葉を伝えた。

「佐藤がそう言ってましたか」
「うん。蓮くんのおかげだって」
「俺は、やりたくてやっただけですから」

蓮くんが、少し照れた。

「でも、嬉しいです」
「うん」
「俺も、色々あるから。佐藤の気持ち、分かるんです」
「...」
「だから、放っておけなかった」

蓮くんの横顔。
この子は、本当に優しい。

「蓮くん」
「はい」
「情けは人の為ならず、っていう言葉、知ってる?」
「えっと、情けは人のためにならない、ってことですか?」
「違うよ。人にかけた情けは、巡り巡って自分に返ってくる、って意味」
「へえ」
「蓮くんがかけた情けは、いつか蓮くんに返ってくるよ」
「...そうですかね」
「そうだよ」

蓮くんが、少し笑った。

「先生も、同じですよ」
「え?」
「先生が俺たちにかけてくれた情けも、いつか返ってきますよ」
「...ありがとう」

10. 夕焼け

帰り道、空を見上げた。

夕焼けが、綺麗だった。
オレンジ色の空。

梅雨が明けたのかもしれない。
長かったな。

でも、乗り越えられた。
佐藤さんが、学校に戻ってこれた。

私一人の力じゃない。
蓮くんがいた。
岩崎先生がいた。
クラスメイトがいた。

みんなの情けが、佐藤さんを救った。

情けは人の為ならず。
人を助けることは、結局、自分も助けることになる。

そういうことなのかもしれない。

11. エミリーへの報告

夜、エミリーにメッセージを送った。

『The student came back to school today.』

返事がすぐ来た。

『That's great news! How is she?』

『Still fragile. But she's smiling a little.』

『I'm so glad. You did it!』

『Not just me. Everyone helped.』

『But you started it. You should be proud.』

『Thanks, Emily.』

エミリーの言葉に、温かい気持ちになった。

誇りに思っていいのかな。
分からない。
でも、少しだけ、自信が持てた気がする。

12. 明日へ

洗面台で、顔を洗った。

鏡に映る自分。 少し疲れてるけど、表情は明るい。

長い六月だった。 SNSいじめ。 佐藤さんの不登校。 クラスの分断。

でも、乗り越えられた。

まだ終わりじゃない。 佐藤さんの心の傷は、すぐには癒えない。 高橋さんとの関係も、まだぎこちない。

でも、一歩、前に進んだ。 それは、確かだ。

情けは人の為ならず。

蓮くんが佐藤さんにかけた情け。 私が生徒たちにかけた情け。 いつか、巡り巡って、返ってくる。

そう信じて、明日も頑張ろう。

歯を磨いて、ベッドに入った。 今日は、ぐっすり眠れそうだ。


次回「明けない夜はない」は2026年6月24日(水)公開予定です。