1. 六月の終わり
六月が終わろうとしてる。
梅雨も、そろそろ明けそう。
空に、入道雲が見え始めた。
「暑くなってきたね」
「もうすぐ七月ですもんね」
「期末テスト、やばい」
生徒たちが、夏の話をしてる。
佐藤さんも、教室にいる。
まだ少し元気がないけど、毎日学校に来てる。
「佐藤さん、今日も来てくれたね」
「はい」
「調子はどう?」
「少しずつ、良くなってきてます」
佐藤さんが、小さく笑った。
良かった。
笑えるようになってきた。
2. 回復の兆し...?
佐藤さんが、少しずつ学校に来られるようになった。
でも、まだ波がある。 元気な日もあれば、一日中俯いてる日もある。
今日は、比較的元気な日みたい。
「佐藤、お昼一緒に食べよう」 「...うん」
女子グループに、声をかけてもらえるようになった。 でも、佐藤さんの笑顔は、まだ少しぎこちない。 高橋さんとは、まだ目も合わせられない状態。
「先生、佐藤、少しずつ良くなってきてますね」
蓮くんが言った。
「うん...でも、まだ心配だな」 「そうですね。無理してる感じ、ありますよね」 「蓮くんも気づいてたんだ」 「はい。でも、学校に来てるだけでも、すごいと思います」
蓮くんが、佐藤さんの方を見た。
「俺にできることがあれば、やります」 「ありがとう。私も、見守り続けるね」
完全に元気になったわけじゃない。 でも、少しずつ前に進んでる。 それを信じて、寄り添い続けよう。
3. 高橋さんのこと
高橋さんは、まだ辛そうだった。
クラスメイトの目が、痛いんだと思う。
「あの子が書いたんだよ」
「ひどいよね」
そういう視線が、まだある。
「高橋さん」
放課後、声をかけた。
「先生...」
「大丈夫?」
「...分かりません」
高橋さんが俯いた。
「みんな、私のこと嫌いだと思います」
「そんなことないよ」
「でも、私、ひどいことしたから」
「それは、そうだけど」
「...」
私は、言葉を選んだ。
「高橋さん、反省してるよね」
「はい」
「謝ったよね」
「はい」
「なら、あとは行動で示すしかない」
「...」
「時間がかかるかもしれない。でも、諦めないで」
高橋さんが、顔を上げた。
「先生、私、変われますか」
「変われるよ。高橋さんなら」
「...ありがとうございます」
高橋さんの目に、涙が浮かんでた。
4. スクールカウンセラーとの連携
スクールカウンセラーの田中先生と、定期的に話すようになった。
「佐藤さん、回復してきていますね」
「はい。でも、まだ不安定な時もあって」
「そうですね。波があるのは普通です」
「高橋さんのことも、心配で」
「加害者のケアも大事ですね」
田中先生が言った。
「瀬良先生、いい仕事をしていますよ」
「そうですか?」
「生徒に寄り添いながら、冷静に対応している。簡単なことじゃないです」
「...ありがとうございます」
少しだけ、自信が持てた。
5. 大村校長の言葉
廊下で、大村校長に会った。
「瀬良先生、大変だったね」
「はい」
「SNSいじめの対応、よくやってくれた」
「いえ、私は...」
「謙遜するな。岩崎先生から聞いてるよ」
校長先生が笑った。
「若い先生が、生徒と一緒に悩んで、一緒に乗り越える。それが大事なんだ」
「...」
「ベテランにはできないこともある。瀬良先生だからできたこともあるんだよ」
「そうですか...」
「自信を持ちなさい。君は、いい先生になれる」
校長先生が去っていった。
いつものセクハラ発言がなかった。
真面目な話の時は、ちゃんと真面目なんだな。
6. 岩崎先生との会話
職員室で、岩崎先生と話した。
「六月、長かったな」
「はい。本当に」
「だが、乗り越えた」
「みんなのおかげです」
岩崎先生が、窓の外を見た。
「『明けない夜はない』という言葉がある」
「はい」
「どんなに長い夜も、必ず朝が来る。どんなに辛い時も、必ず終わりが来る」
「...」
「佐藤も、高橋も、まだ夜の中にいるかもしれない。だが、朝は必ず来る」
「はい」
「お前は、その朝を信じて、寄り添い続けろ」
岩崎先生の言葉が、心に響いた。
「はい。分かりました」
「良い教師になれよ、瀬良先生」
珍しく、名前で呼ばれた。
嬉しかった。
7. 蓮くんの家庭
放課後、蓮くんと話した。
「先生、期末テストの勉強、教えてもらえますか」
「いいよ。何が分からない?」
「関係代名詞が...」
蓮くんに、英語を教えた。
飲み込みが早い。
「蓮くん、塾行ってないんだよね」
「はい。お金がないので」
「でも、成績いいよね」
「独学です。図書館で勉強してます」
蓮くんが、少し笑った。
「先生が教えてくれるから、助かってます」
「私でよければ、いつでも教えるよ」
「ありがとうございます」
蓮くんの家庭のこと、気になる。
でも、今は聞かない方がいいかな。
「蓮くん」
「はい」
「困ったことがあったら、言ってね」
「...はい」
蓮くんが、少し驚いた顔をした。
「先生、なんでそんなこと言うんですか」
「なんとなく。蓮くんも、色々抱えてるのかなって思って」
「...」
「一人で抱え込まないでね」
蓮くんが、少し俯いた。
「ありがとうございます」
8. 夏の予感
学校の帰り道。
空を見上げると、青い空が広がってた。 入道雲が、もくもくと。
もうすぐ夏だ。
六月は、長かった。 辛いことも、たくさんあった。
でも、最悪の時期は過ぎたと思う。
佐藤さんは、学校に来れるようになった。 まだ波はあるけど、少しずつ前に進んでる。 高橋さんは、反省して、やり直そうとしてる。 クラスは、ゆっくりと落ち着きを取り戻しつつある。
完全に解決したわけじゃない。 油断したら、また悪化するかもしれない。
でも、岩崎先生が言ってた。 「朝は必ず来る」って。
まだ夜明け前かもしれない。 でも、空が白み始めてる。 そう思うことにした。
9. 商店街で
商店街を歩いてたら、おばちゃんに会った。
「あら、先生。元気そうじゃない」
「はい。最近、やっと落ち着いて」
「大変だったんでしょ。顔に出てたもん」
「え、そんなに?」
「先生、顔に出やすいタイプだね」
おばちゃんが笑った。
「でも、乗り越えたんでしょ」
「はい。生徒たちと一緒に」
「偉いね。若いのに」
「いえ、私は何も...」
「謙遜しなくていいの。頑張った自分を褒めなさい」
おばちゃんが、スイカをくれた。
「夏バテしないように、食べなさい」
「ありがとうございます」
街の人たちの温かさが、染みる。
10. エミリーとの約束
夜、エミリーとビデオ通話した。
「Misaki, you look better!」 「うん。やっと落ち着いた」 「I'm glad. I was worried about you.」 「ありがとう」
エミリーが笑った。
「I'm thinking of visiting Japan this summer.」 「え、本当?」 「Yeah. I want to see you.」 「嬉しい!」 「When's a good time?」 「八月かな。お盆休みがあるから」 「OK. I'll make plans.」
エミリーに会える。 楽しみだな。
「Misaki, you did well.」 「うん」 「Remember when I said don't carry everything alone?」 「覚えてる」 「Thank you for listening.」
エミリーの言葉に、胸が温かくなった。
11. 明日への希望
ベッドに横になって、天井を見上げた。
教師になって、三ヶ月。
四月は、緊張の毎日だった。
五月は、少しずつ慣れてきた。
六月は、いじめ問題と向き合った。
辛いことも、たくさんあった。
でも、嬉しいことも、たくさんあった。
生徒たちとの絆が、少しずつ深まってる。
先輩教師から、少しずつ学んでる。
私も、少しずつ成長してる。
明けない夜はない。
どんなに辛い時も、必ず朝が来る。
それを信じて、これからも頑張ろう。
七月は、どんな一ヶ月になるかな。
期末テストがある。
夏休みが待ってる。
楽しみだな。
12. 七月へ
次の日。
学校に行くと、生徒たちが元気に挨拶してくれた。
「おはようございます、サラ先生!」
「おはよう」
佐藤さんも、笑顔で挨拶してくれた。
「先生、おはようございます」
「おはよう、佐藤さん。元気?」
「はい。今日は、調子いいです」
「良かった」
蓮くんが近づいてきた。
「先生、今日も暑くなりそうですね」
「うん。もう夏だね」
「期末テスト、頑張ります」
「うん。応援してるよ」
七月が始まる。
新しい一ヶ月が始まる。
明けない夜はない。
長かった六月の夜が明けて、七月の朝が来た。
今日も一日、頑張ろう。
生徒たちと一緒に、前に進もう。
空を見上げた。
青い空に、白い雲が浮かんでる。
いい天気だ。
いい一日になりそう。
次回「備えあれば憂いなし」は2026年7月1日(水)公開予定です。