YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

第16話「能ある鷹は爪を隠す」

1. 成績発表

期末テストの結果が出た。

教室で、答案用紙を返却する。

「では、返しますね」

一人一人の名前を呼んで、答案を渡していく。
嬉しそうな顔、悔しそうな顔、いろんな表情がある。

「難波くん」
「はい」

蓮くんに答案を渡した。
92点。クラスでトップクラスの成績。

「よく頑張ったね」
「ありがとうございます」

蓮くんが、少し照れた顔をした。

2. 蓮くんの成績

休み時間、蓮くんの周りに生徒が集まってる。

「難波、すげえな」
「塾行ってないんでしょ?独学でこれ?」
「まじでやばい」

蓮くんが、困った顔をしてる。

「いや、普通に勉強しただけだよ」
「普通じゃないって」
「先生が分かりやすく教えてくれたから」

蓮くんが、私の方を見た。
少し照れくさい。

「難波くんが頑張ったからだよ」

そう言うと、蓮くんがまた照れた。

3. 南雲くんの成績

職員室で、成績一覧を見た。

学年トップは...南雲統。

「え」

思わず声が出た。

南雲くんは、授業にほとんど出てこない。
いつも昼寝してる。
なのに、学年1位。

「南雲は、いつもこうだ」

岩崎先生が言った。

「授業に出なくても、テストは満点近く取る」
「どうやって...」
「独学だろう。あいつは、教科書を一度読めば理解する」
「天才ってことですか」
「そういうことだ」

南雲くん、本当に謎だ。

4. 蓮くんと南雲くん

昼休み、屋上に行ったら、南雲くんがいた。

「南雲くん、学年1位だって」
「ああ、そう」

南雲くんが、あくびをした。
全く興味がなさそう。

「すごいね」
「別に。テストなんて、問題を解くだけだから」
「...」

南雲くんの隣に、蓮くんが来た。

「南雲、お前すげえな」
「お前も2位じゃん」
「俺は2番手グループ。お前とは違う」
「俺から見たら、お前も十分すごいよ」

南雲くんが、珍しくまともなことを言った。

「塾行ってないのに、この成績。努力してる」
「...」
「俺は努力しない。お前は努力してる。そっちの方がすごい」

蓮くんが、少し驚いた顔をした。

南雲くん、見てないようで見てるんだな。

5. 成績会議

放課後、成績会議があった。

各クラスの成績を確認する会議。
私も、英語科の担当として出席した。

「三年二組、難波蓮。成績優秀ですが、塾に通っていません」

岩崎先生が報告した。

「家庭の経済状況が厳しいようです」
「そうなんですか」

佐々木先生が言った。

「父親は非正規雇用、母親はパート掛け持ち。就学援助を受けています」
「なるほど...」

山田先生が、私を見た。

「難波くん、頑張ってるのよ」
「はい。授業態度も真面目で」
「経済的な問題があっても、この成績を維持している。立派です」

校長先生も頷いた。

蓮くんの家庭状況。
なんとなく察してはいたけど、改めて聞くと、重い。

6. 山田先生との会話

会議の後、山田先生と話した。

「難波くん、大変なのね」
「はい。でも、頑張ってますよね」
「うん。妹さんもいるらしいわよ」
「咲良ちゃん、ですよね」
「そう。小学4年生」

山田先生が、少し考えてから言った。

「瀬良先生、難波くんのこと、見守ってあげてね」
「はい」
「でも、踏み込みすぎないように」
「踏み込みすぎない...」
「家庭の問題は、外からは変えられない。本人が求めてきたら、助ける。それくらいの距離感がいいと思う」

山田先生の言葉に、頷いた。

踏み込みすぎない。
でも、見守る。
その距離感が、大事なのかもしれない。

7. 岩崎先生の評価

職員室で、岩崎先生と話した。

「南雲のことだが」
「はい」
「あいつは、能ある鷹だ」
「能ある鷹...」
「『能ある鷹は爪を隠す』という言葉がある」
「はい」
「実力者は、自分の力を見せびらかさない。南雲は、まさにそれだ」

岩崎先生が、窓の外を見た。

「授業に出ない。昼寝ばかり。だが、成績はトップ」
「どうして授業に出ないんですか」
「退屈だからだろう。あいつには、普通の授業は物足りない」
「...」
「だが、問題児扱いはしない。あいつには、あいつの道がある」

岩崎先生の言葉に、少し驚いた。

南雲くんのこと、ちゃんと見てるんだ。

8. 蓮くんも「能ある鷹」

「難波もそうだ」

岩崎先生が続けた。

「あいつも、爪を隠している」
「蓮くんが?」
「家庭の事情を、誰にも言わない。苦労を見せない。だが、成績は上位」
「...」
「あいつは、本当は悔しいはずだ。塾に行きたいだろう。でも、それを言わない」

岩崎先生の言葉が、胸に刺さった。

蓮くんは、いつも笑ってる。
でも、その裏には、いろんなことを抱えてるんだ。

「難波は、強い生徒だ。見守れ」
「はい」

9. 帰り道

学校を出て、帰り道を歩いた。

能ある鷹は爪を隠す。

南雲くんも、蓮くんも、自分の力を見せびらかさない。
それぞれの形で、自分の道を歩いてる。

私は、まだまだ未熟だ。
生徒たちのことを、もっと理解したい。

蓮くんの家庭のこと。
南雲くんの才能のこと。
佐藤さんの回復のこと。
高橋さんの反省のこと。

一人一人に、いろんな背景がある。
それを知って、寄り添えるようになりたい。

10. 商店街で

商店街を通ったら、やおふくのおばちゃんに会った。

「あら、先生。お疲れ様」
「こんにちは」
「テストの採点、終わった?」
「はい、やっと」
「大変ね。先生も」

おばちゃんが、トマトを袋に入れてくれた。

「これ、持っていきな」
「いいんですか?」
「いいのいいの。夏バテしないように」
「ありがとうございます」

おばちゃんが笑った。

「先生、顔色良くなったね」
「え、そうですか?」
「前より、なんか落ち着いた感じ」
「そう、ですかね」

少しずつ、変わってきてるのかもしれない。
自分では分からないけど。

11. エミリーとの通話

夜、エミリーとビデオ通話した。

「Misaki, you look good!」 「うん。やっとテストが終わって」 「Good job. Grading must have been tough.」 「うん。でも、生徒たちが頑張ってくれたから」

エミリーが笑った。

「You talk about your students a lot now.」 「そう?」 「Before, you only talked about yourself.」 「...そうかな」 「You really like them, don't you?」 「うん。そうかも」

エミリーの言葉で、気づいた。

私は、生徒たちのことが好きになってる。
一人一人のことを、もっと知りたいと思ってる。

12. 夏休みに向けて

ベッドに横になって、天井を見上げた。

期末テストが終わって、もうすぐ夏休み。

能ある鷹は爪を隠す。

南雲くんの才能。
蓮くんの努力。
みんな、それぞれの力を持ってる。

私も、もっと成長したい。
生徒たちを見守る力をつけたい。

夏休みは、どんな日々になるんだろう。
蓮くんは、何をするんだろう。
南雲くんは、相変わらず昼寝してるのかな。

少しだけ、楽しみになってきた。

一学期も、もうすぐ終わり。 いろんなことがあったな。

スマホを見たら、エミリーからメッセージが来てた。

「How was the exam?」

返信した。

「みんな頑張ってた。私も頑張らなきゃ」

すぐに返事が来た。

「You're doing great. I'm proud of you.」

エミリーの言葉に、少し元気が出た。

さあ、夏休みまであと少し。 最後まで頑張ろう。


【作者ノート:就学援助制度について】

この物語で蓮くんの家庭が利用している「就学援助」は、実在する制度です。

就学援助制度とは 経済的な理由で就学が困難な小中学生の保護者に対して、市区町村が学用品費や給食費などを援助する制度です。学校教育法第19条に基づいています。

援助の内容 学用品費、給食費、修学旅行費、校外活動費、医療費など、学校生活に必要な費用が対象となります。具体的な内容や金額は自治体によって異なります。

どんな家庭が対象? 生活保護を受けている世帯(要保護者)だけでなく、それに準ずる程度に経済的に困窮している世帯(準要保護者)も対象です。蓮くんの家庭のように、両親が懸命に働いていても収入が基準以下の場合、申請することができます。

利用状況 令和4年度の調査では、全国で約126万人——およそ7人に1人の児童生徒が就学援助を利用しています。決して珍しいことではありません。

蓮くんが塾に通わず独学で成績上位を維持しているのは、家庭の経済状況と無関係ではありません。就学援助があっても、塾代や習い事の費用までは賄えないからです。それでも腐らず努力を続ける蓮くんの姿を、これからも描いていきたいと思います。

※この物語はフィクションですが、就学援助制度は実在します。詳しくは文部科学省「就学援助制度について」をご覧ください。 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/05010502/017.htm


次回「一念天に通ず」は2026年7月15日(水)公開予定です。