1. 夏の部活
八月上旬。
夏休みも、もう二週間が過ぎた。
今日も暑い。
朝から三十度を超えてる。
「暑い...」
学校に向かいながら、汗を拭いた。
夏休み中も、部活指導で学校に来ることがある。
今日は、バスケ部の練習試合の引率だ。
英語部の顧問だけど、人手が足りない時は他の部活も手伝う。
新人教師の宿命。
2. バスケ部の様子
体育館に着くと、バスケ部が練習してた。
「おはようございます!」
「おはよう。今日は練習試合だね」
「はい!頑張ります!」
部員たちが、元気に声を出してる。
顧問は新井先生。体育科の若い先生。
私より三つ上くらい。
「瀬良先生、今日はありがとうございます」
「いえ、お手伝いできることがあれば」
「スコアの記録、お願いしていいですか?」
「分かりました」
練習試合の準備が進む。
3. いざこざの発端
練習試合の前、ちょっとしたいざこざがあった。
三年生の先輩と、二年生の後輩。
「お前、シュートフォームおかしいって言っただろ」
「直してますよ」
「全然直ってない。そんなんで試合出るな」
「...」
二年生の子が、俯いてる。
「先輩、そこまで言わなくても...」
別の二年生が口を挟んだ。
「うるさい。お前らが下手だから、俺たちが苦労するんだ」
空気が悪くなってきた。
4. 新井先生の対応
新井先生が、間に入った。
「おい、練習試合前に何やってんだ」
「でも先生、こいつらが...」
「言いたいことがあるなら、試合で見せろ」
「...」
「言葉じゃなくて、プレーで語れ。それがスポーツだろ」
新井先生の言葉に、部員たちが黙った。
「いいか、チームってのは、みんなで戦うんだ。一人が下手でも、カバーし合う。それがチームだ」
「はい...」
「練習試合、全力で行くぞ」
「はい!」
新井先生、さすがだな。
うまく収めた。
5. 練習試合
練習試合が始まった。
私は、スコアの記録をしながら見守った。
さっき言い合いしてた先輩と後輩。 試合では、ちゃんと連携してる。
「ナイス!」 「そこだ!」
声を掛け合いながら、プレーしてる。
前半が終わって、三点ビハインド。
「落ち着け。まだ前半だ」
新井先生が、部員たちに声をかけてる。
「後半、しっかり守って、攻めろ」 「はい!」
後半が始まった。
さっき怒られてた二年生が、ボールを持った。
ドリブルで相手を抜く。 シュート体勢に入る。
「打て!」
先輩の声が飛んだ。
二年生が、シュートを放った。
ボールが、綺麗な弧を描いて、リングに吸い込まれた。
「よし!」 「ナイス!」
歓声が上がった。
二年生の顔が、パッと明るくなった。
その後も、接戦が続く。
残り三十秒。同点。
「集中しろ!」
新井先生の声が飛ぶ。
相手のミスパスを、うちの三年生がカット。
速攻。
シュート。
ブザーと同時に、ボールがリングに入った。
「よっしゃ!」 「勝った!」
部員たちが、喜んでる。
6. 仲直り
試合後、さっきの先輩が後輩に話しかけてた。
「お前、今日のシュート良かったぞ」
「え、本当ですか?」
「ああ。さっきは言いすぎた。悪かった」
「いえ...」
「でも、もっと練習しろよ。お前、才能あるから」
「はい!」
後輩が、嬉しそうに笑った。
なんだったの、さっきの険悪な雰囲気。
あっさり仲直りしてる。
スポーツって、こういうものなのかな。
ぶつかって、戦って、和解する。
7. 新井先生との会話
片付けの後、新井先生と話した。
「瀬良先生、お疲れ様でした」 「お疲れ様です。勝てて良かったですね」 「ああ、部員たち頑張ったよ」
新井先生が、ペットボトルの水を飲んだ。
「さっきのいざこざ、驚きました」 「ああ、よくあることだよ」 「そうなんですか?」 「部活って、ぶつかることも多いからね。でも、それで成長する」
新井先生が笑った。
「後半のシュート、見ました?」 「二年生の子のですか」 「うん。あれ、朝に注意されたフォームを直したんだよ」 「え、そうだったんですか」 「先輩に言われて、悔しかったんだろうな。休憩中、ずっとフォームの練習してた」
新井先生が、体育館を見た。
「厳しく言われて、反発することもある。でも、ちゃんと聞く子は伸びる」 「...」 「あの二年生は、伸びるよ。悔しさをバネにできる子だから」
新井先生が続けた。
「『若い時の苦労は買ってでもせよ』って言うだろ」 「はい」 「あいつらも、苦労しながら成長してる。今日のいざこざも、いい経験だよ」
8. 岩崎先生の言葉
職員室に戻ると、岩崎先生がいた。
「瀬良先生、バスケ部の手伝いか」
「はい。練習試合でした」
「どうだった」
「勝ちました。でも、ちょっとしたいざこざがあって」
「いざこざ?」
経緯を説明した。
岩崎先生が頷いた。
「若い時の苦労は、成長の糧だ」
「はい」
「ぶつかることを恐れるな。ぶつかって、乗り越えて、強くなる」
「...」
「お前も同じだ。教師としての苦労を、買ってでもしろ」
岩崎先生の言葉が、胸に響いた。
9. 帰り道
学校を出て、帰り道を歩いた。
暑い。
日差しが強くて、汗が止まらない。
若い時の苦労は買ってでもせよ。
バスケ部の先輩と後輩も、苦労しながら成長してる。
私も、いろんな苦労をしながら、少しずつ成長してるのかもしれない。
四月からの四ヶ月。
失敗もした。悩みもした。
でも、それが全部、成長の糧になってるのかな。
10. 商店街で
商店街を通ったら、おばちゃんに会った。
「あら、先生。今日も暑いね」
「はい。溶けそうです」
「アイス食べな。サービスするよ」
「いいんですか?」
「いいのいいの。暑さ対策」
おばちゃんが、アイスをくれた。
「先生、日焼けしたね」
「部活の手伝いで、外にいたから」
「若いっていいね。元気があって」
「そうですかね」
「そうだよ。若い時は、いっぱい動いて、いっぱい苦労しな。それが財産になる」
おばちゃんの言葉に、頷いた。
11. アパートにて
アパートに帰って、シャワーを浴びた。
汗を流すと、さっぱりする。
今日は、いい経験だった。
バスケ部のいざこざ、新井先生の対応、岩崎先生の言葉。
若い時の苦労は買ってでもせよ。
私も、もっといろんな経験をしよう。
失敗を恐れず、挑戦しよう。
それが、教師としての成長につながる。
12. 夏の夜
夜、窓を開けた。
少しだけ涼しい風が入ってくる。
夏の夜は、虫の声がする。
明日も、部活指導がある。
英語部の活動日。
夏休みは、生徒と関わる機会が少ない。
でも、部活を通じて、違う形で関われる。
バスケ部の子たちも、頑張ってた。
みんな、それぞれの場所で成長してる。
私も、頑張ろう。
若い時の苦労を、買ってでもしよう。
それが、いつか実を結ぶ日が来る。
目を閉じた。
今日は、よく眠れそうだ。
次回「袖振り合うも他生の縁」は2026年8月12日(水)公開予定です。