1. おばちゃんの誘い
八月中旬。
商店街を歩いてたら、やおふくのおばちゃんに呼び止められた。
「先生、ちょっといい?」
「はい、何ですか?」
「子ども食堂、行ったことある?」
「この前、外から見ました」
「中には入った?」
「いえ、まだ...」
おばちゃんが、にっこり笑った。
「今度、ボランティアで手伝いに行くんだ。先生も来ない?」
「私がですか?」
「うん。子どもたちに勉強教えてあげてよ。先生なんだから」
ボランティア。
子ども食堂で、子どもたちに勉強を教える。
「いいですね。行ってみたいです」
「じゃあ、明日の午後、一緒に行こう」
「はい」
2. 子ども食堂へ
次の日の午後。
おばちゃんと一緒に、子ども食堂に行った。
「ここだよ」
古い建物。
でも、入り口には可愛らしい看板がある。
「ようこそ、ひまわり子ども食堂へ」
中に入ると、子どもたちの声が聞こえた。
「こんにちは!」
「いらっしゃい」
子ども食堂代表の佐野さんが、迎えてくれた。
「あら、瀬良先生。来てくれたのね」
「はい。お手伝いに来ました」
「嬉しいわ。子どもたち、喜ぶわよ」
3. 子どもたち
食堂の中には、小学生くらいの子どもたちがたくさんいた。
宿題をしてる子。
本を読んでる子。
ゲームをしてる子。
「先生、こんにちは!」
咲良ちゃんが、駆け寄ってきた。
「咲良ちゃん、元気?」
「うん!今日、お兄ちゃんも来てるよ」
「蓮くんも?」
咲良ちゃんが、奥の方を指さした。
そこには、蓮くんがいた。
4. 蓮くんの姿
蓮くんが、小学生の子どもたちに勉強を教えてた。
「ここは、こうやって計算するんだよ」
「難しい...」
「大丈夫。ゆっくりやれば、できるから」
優しい声で、丁寧に教えてる。
蓮くんが、こちらに気づいた。
「あ、先生...」
「蓮くん、来てたんだね」
「はい。夏休み中、手伝いに来てます」
蓮くんが、少し照れた顔をした。
「先生も、ボランティアですか?」
「うん。おばちゃんに誘われて」
「そうですか」
蓮くんが、嬉しそうに笑った。
5. 勉強を教える
私も、子どもたちに勉強を教えることになった。
「先生、英語教えて!」
「いいよ。何が分からない?」
「アルファベットが覚えられない...」
小学四年生の男の子。
英語の教科書を持ってる。
「じゃあ、一緒に練習しよう」
アルファベットを書きながら、発音を教えた。
「A、エイ」
「エイ」
「B、ビー」
「ビー」
男の子が、一生懸命に真似してる。
「上手だね」
「本当?」
「うん。すぐ覚えられるよ」
男の子が、嬉しそうに笑った。
6. 佐野さんとの会話
休憩時間、佐野さんと話した。
「瀬良先生、ありがとうございます」
「いえ、楽しかったです」
「子どもたち、喜んでましたよ」
佐野さんが、お茶を出してくれた。
「子ども食堂って、いつ頃から?」
「三年前に始めました。最初は週一回だったけど、今は週三回」
「すごいですね」
「地域の人たちの協力があってこそです」
佐野さんが、窓の外を見た。
「ここに来る子どもたちは、いろんな事情を抱えてます」
「はい」
「経済的に困ってる家庭、一人で食事をする子ども、居場所がない子ども」
「...」
「でも、ここでは、みんな笑顔になれる。それが嬉しいんです」
佐野さんの言葉が、心に響いた。
7. 蓮くんのこと
佐野さんが、蓮くんのことを話してくれた。
「蓮くん、よく手伝ってくれるんですよ」
「そうなんですね」
「最初は咲良ちゃんと一緒に来てたんですけど、いつの間にか手伝う側になって」
「蓮くんらしいですね」
「勉強を教えるのが上手なの。子どもたち、蓮くんのこと大好きよ」
蓮くんが、小学生たちに囲まれてる。
「蓮くん、これ分かんない」
「蓮くん、遊ぼう」
「蓮くん、蓮くん」
人気者だな。
「蓮くん、将来は教師になるのかしら」
佐野さんが言った。
「教師、ですか」
「向いてると思うわ。子どもが好きで、教えるのが上手で」
蓮くんが教師。
確かに、向いてるかもしれない。
8. 夕食の時間
夕方になって、夕食の時間になった。
「今日のメニューは、カレーライスです!」
佐野さんが発表すると、子どもたちが歓声を上げた。
「やった!」
「カレー大好き!」
みんなで、テーブルを囲んで食べる。
「いただきます!」
カレーの匂いが、食堂に広がる。
おいしそう。
私も、一緒にいただいた。
「おいしい」
「でしょ?おばちゃんたちの手作りだよ」
咲良ちゃんが、嬉しそうに言った。
9. 岩崎先生の言葉を思い出す
みんなで食事をしながら、岩崎先生の言葉を思い出した。
「『袖振り合うも他生の縁』という言葉がある」
前に、職員室で聞いた言葉だ。
偶然の出会いも、縁。
すれ違うだけでも、縁。
この子ども食堂との出会いも、縁なんだ。
商店街のおばちゃんに誘われて、ここに来た。
蓮くんや咲良ちゃんと、また会えた。
子どもたちに勉強を教えることができた。
全部、縁でつながってる。
10. 蓮くんとの会話
帰り際、蓮くんと話した。
「先生、今日はありがとうございました」
「こちらこそ。いい経験になった」
「また来てくれますか?」
「うん。来れる時は来るよ」
蓮くんが、少し嬉しそうに笑った。
「ここ、いい場所でしょ」
「うん。温かい場所だね」
「俺、ここが好きなんです」
「分かる気がする」
蓮くんが、子どもたちの方を見た。
「俺みたいな子を、助けたいんです」
「蓮くんみたいな子?」
「経済的に大変な子。居場所がない子。そういう子の力になりたい」
蓮くんの目が、真剣だった。
「だから、ここで手伝ってるんだ」
「はい」
蓮くんの夢。
少し、見えた気がした。
11. 帰り道
帰り道、おばちゃんと一緒に歩いた。
「先生、どうだった?」
「良かったです。また行きたい」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
おばちゃんが笑った。
「袖振り合うも他生の縁、ってね」
「はい」
「今日の出会いも、縁だよ。大事にしな」
「はい」
子ども食堂との縁。
蓮くんとの縁。
子どもたちとの縁。
全部、大事にしよう。
12. 夜、考えたこと
アパートに帰って、今日のことを考えた。
子ども食堂。
温かい場所だった。
みんなで食事をして、笑い合って。
勉強を教えて、遊んで。
蓮くんは、そこで居場所を見つけてる。
咲良ちゃんも、楽しそうだった。
私にも、何かできることがあるかもしれない。
教師として、ボランティアとして。
子どもたちの力になれることが。
袖振り合うも他生の縁。
偶然の出会いを、大切にしよう。
それが、きっと何かにつながる。
窓の外を見た。
夏の夜空に、星が瞬いてる。
明日は、お盆で実家に帰る。
両親に会える。
でも、子ども食堂のことは、忘れない。
また、手伝いに行こう。
そう決めて、目を閉じた。
次回「初心忘るべからず」は2026年8月19日(水)公開予定です。