YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

第22話「初心忘るべからず」

1. 帰省

お盆休み。

実家に帰省した。

電車を乗り継いで、三時間。
久しぶりの実家。

「ただいま」
「おかえり、美咲」

お母さんが、玄関で迎えてくれた。

「元気そうね」
「うん。元気だよ」
「ちゃんと食べてる?」
「食べてるよ」

お母さんの心配性は、相変わらずだな。

2. 実家の空気

実家に入ると、懐かしい匂いがした。

畳の匂い。
線香の匂い。
お母さんの料理の匂い。

「お父さんは?」
「仕事よ。夜には帰ってくる」
「そっか」

居間に座って、お茶を飲んだ。

「学校、どう?」
「大変だけど、楽しいよ」
「そう。良かった」

お母さんが、嬉しそうに笑った。

「美咲が教師になるなんて、昔は想像もしなかったわ」
「そう?」
「シアトルにいた頃は、通訳とか翻訳とか、そういう仕事がいいって言ってたでしょ」
「ああ、そうだったね」

そういえば、そんなことを言ってた気がする。

3. 教師を志した理由

「なんで教師になろうと思ったの?」

お母さんが聞いてきた。

「うーん、いろいろあるけど」

考えてみた。

「高校の時の英語の先生が、すごく良い先生だったの」
「ああ、田村先生だったかしら」
「そう。シアトルから帰ってきて、英語の授業が退屈だと思ってたんだけど」
「ネイティブ並みに話せたからね」
「でも、田村先生の授業は違った。英語の楽しさ、言葉の力を教えてくれた」

田村先生のことを思い出した。

「私も、そういう先生になりたいって思ったの」
「そうだったのね」
「生徒に、何かを伝えられる先生に」

お母さんが、頷いた。

4. お父さんとの会話

夜、お父さんが帰ってきた。

「おう、美咲。元気か」
「うん。お父さんも元気?」
「まあまあだ」

お父さんは、あまり多くを語らない人だ。
でも、優しい。

「学校、大変か」
「うん。でも、やりがいはあるよ」
「そうか。無理するな」
「うん」

お父さんが、ビールを飲みながら言った。

「教師ってのは、大変な仕事だ」
「うん」
「でも、大事な仕事だ。お前なら、やれる」
「...ありがとう」

お父さんに褒められるのは、珍しい。
ちょっと嬉しい。

5. エミリーとのビデオ通話

夜、部屋でエミリーとビデオ通話した。

「Misaki! How are you?」 「今、実家にいるの。お盆休みで」 「Oh, right! The festival for ancestors.」 「うん。そっちはどう?」

エミリーが笑った。

「I'm good. I miss Japan though.」 「日本に来るって言ってたよね?」 「Yes! I'm planning to come in late August.」 「本当?嬉しい!」

エミリーが日本に来る。 嬉しい。

「I want to see your school.」 「もちろん。案内するよ」 「And I want to meet your students.」 「きっと気に入るよ」

エミリーと話してると、シアトル時代を思い出す。
あの頃は、まだ何者でもなかった。

でも今は、教師として生徒たちと向き合ってる。
少しずつ、成長してる。

6. 初心を思い出す

ビデオ通話を終えて、窓の外を見た。

実家の庭。
昔、遊んだ場所。

教師になろうと決めた時のことを思い出した。

高校三年生の進路相談。
「英語の先生になりたい」と言った時、両親は驚いてた。

でも、応援してくれた。
大学に進学して、教員免許を取って。
そして今、本当に教師になった。

初心忘るべからず。

なぜ教師になりたかったのか。
生徒に何かを伝えたかったから。
田村先生みたいな先生になりたかったから。

その気持ちを、忘れちゃいけない。

7. お墓参り

次の日、家族でお墓参りに行った。

おじいちゃんとおばあちゃんのお墓。
二人とも、私が小学生の時に亡くなった。

「おじいちゃん、おばあちゃん。教師になったよ」

心の中で報告した。

「まだまだ未熟だけど、頑張ってるよ」

お線香を上げて、手を合わせた。

お母さんが言った。

「おじいちゃん、教師だったのよ」
「え、そうなの?」
「小学校の先生。定年まで勤めたわ」
「知らなかった」
「美咲が教師になるって言った時、おじいちゃんに似たなって思ったの」

おじいちゃんも、教師だったんだ。
なんだか、不思議な縁を感じる。

8. 岩崎先生の言葉を思い出す

帰り道、岩崎先生の言葉を思い出した。

「『初心忘るべからず』という言葉がある」

前に、職員室で聞いた言葉だ。

「最初の志を忘れるな。慣れてきた時こそ、初心に立ち返れ」

四月から四ヶ月。
少しずつ慣れてきた。
でも、初心を忘れちゃいけない。

なぜ教師になったのか。
何を伝えたいのか。

その気持ちを、いつも心に持っておこう。

9. 母との会話

夜、お母さんと話した。

「美咲、楽しそうね」
「え?」
「教師の仕事、楽しんでるでしょ」
「うん。大変だけど、楽しい」

お母さんが、お茶を淹れてくれた。

「大変なこともあったでしょ」
「うん。いじめ問題とか...」
「そう」
「でも、乗り越えられた。先輩の先生たちに助けてもらって」
「良かったわね」

お母さんが、優しく笑った。

「美咲、いい先生になるわよ」
「そうかな」
「分かるわ。母親だから」

お母さんの言葉が、嬉しかった。

10. 実家最後の夜

帰省最後の夜。

明日は、また学校のある街に戻る。

「元気でね」
「うん。お母さんも、お父さんも」
「たまには電話してね」
「分かってる」

お父さんが、ぼそっと言った。

「また来い」
「うん。年末には帰るよ」
「ああ」

お父さんなりの愛情表現だな。

11. 帰りの電車

帰りの電車に乗った。

窓の外を、田んぼが流れていく。
夏の緑が、眩しい。

初心忘るべからず。

教師になった理由。
生徒に伝えたいこと。
なりたい教師像。

全部、心に刻んでおこう。

蓮くんのこと。
南雲くんのこと。
佐藤さん、高橋さん、他のみんなのこと。

一人一人の生徒と、真剣に向き合おう。
それが、私の初心だから。

12. 戻ってきた

夕方、アパートに戻った。

「ただいま」

誰もいない部屋に、声をかけた。

荷物を置いて、窓を開けた。
夏の風が、入ってくる。

夏休みも、あと二週間くらい。
もうすぐ二学期が始まる。

実家で充電できた。
両親に会えて、エミリーとも話せた。
おじいちゃんが教師だったことも知った。

初心忘るべからず。

二学期も、頑張ろう。 初心を忘れずに、生徒たちと向き合おう。

エミリーが日本に来るのも、楽しみだ。

キッチンに立って、夕飯の準備を始めた。

おじいちゃんのことを思い出しながら、野菜を切る。 教師だったおじいちゃん。 私も、同じ道を歩いてる。

「ただいま」って言える場所がある。 「おかえり」って待ってくれる生徒たちがいる。

それだけで、十分だ。

さあ、二学期も頑張ろう。


次回「去る者は日々に疎し」は2026年8月26日(水)公開予定です。