
毎年この時期に、うちのウェブ版には「市内のラジオ体操会場一覧」が載る。
誰が読むのかと思うが、これが案外読まれる。町内会から会場と日程が上がってきて、俺がそれを表に組み直す。十年やっている、夏の定番である。
今年、表を作りながら、去年のファイルを開いた。
会場が減っていた。
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最近の子は、ラジオ体操をやらんのやな。
そう思った。思ってから、いちおう調べた。近ごろ、決めつけて書きかけて痛い目に遭っているからである。
数字があった。小学校でラジオ体操を実施している割合は、二〇〇四年度が七十六・四パーセント、二〇二〇年度が六十三・二パーセント。
十六年で、十三ポイント減っている。
減ってはいる。減ってはいるのだが、理由の並びを見て、俺は黙った。
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一級ラジオ体操指導士という肩書きの方が、こう挙げていた。
子どもの数が減った。世話役の負担が大きい——会場を押さえ、機械を運び、出席カードに判を押す。共働きで、親が付き添えない。子どもだけで早朝に出すのが不安。コロナで一度止めて、そのまま再開しなかった。
そして、もう一つ。
「朝早くてうるさい」という苦情。
子どもがやらなくなったのではない。大人がやめている。
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うるさい、というところで、俺は一瞬だけカチンときた。
六時半に十分間、公園でラジオが鳴る。それがそんなに罪か。
……と思ってから、考え直した。あの頃だって、うるさかったはずである。日本中の公園で、朝から音が鳴っていた。夜勤明けの人も、赤ん坊がやっと寝た家も、あの時代にもあった。
変わったのは音量ではない。言えるようになったことのほうだ。
それが良いか悪いかは、俺には決められない。決められないが、「昔はよかった」で済ませてはいけない気がする。よかったのは、たぶん、俺にとってだけだ。
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ところで、今日から甲子園である。
第百八回。八月二十二日まで、試合が十五日と休養日が三日。四十九校が出る。
その開会式が、今日の午後四時だという。開門が三時。第一試合は五時半にプレイボール。
暑いからである。
大会中は「朝夕二部制」になる。午前の第一試合が終わると客を全部入れ替えて、午後の部は一時半から三試合。五回が終わると八分間のクーリングタイムがあって、体温を測り、着替え、体を冷やし、シャーベット状の飲み物を摂る。
俺が高校生の頃には、なかった言葉ばかりである。
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なるほど、と俺は思った。
どっちも暑さのせいやな。
ラジオ体操が消えて、甲子園が時間をずらす。夏の朝が、昔とは別のものになったということだ。うまいこと繋がった。今日はこれで書ける。
……繋がっていなかった。
もう一度さっきの並びを読み返したが、ラジオ体操が減った理由に、暑さは一つも入っていない。少子化と、負担と、共働きと、苦情と、コロナである。
甲子園は暑さで動いた。ラジオ体操は、人の都合で減った。同じ夏の朝の行事だが、消えかけている理由が違う。
俺はまた、二つ並べて一つに見た。
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もう一つ、調べていて意外だったことがある。
放送は、いまも毎朝やっている。
ラジオ第一が六時三十分から十分間。Eテレは六時二十五分から。かんぽ生命とNHKと全国ラジオ体操連盟の三者で、七月二十日から八月三十一日までの四十三日間、全国四十三か所を回る巡回の体操会もちゃんと続いている。
何一つ、やめていない。
ラジオは、いまも鳴っている。
鳴っているところへ、人が出てこなくなっただけだ。
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今日、球児が整列するのは、夕方の四時である。朝ではない。
その同じ日の朝、市内のいくつかの公園では、誰も来ないままラジオが鳴っていたかもしれない。
夏の朝が、両側から空いていく。
*
小学生の頃、首から下げていた紙のカードを思い出す。
三十日ぶんくらいのマス目があって、行くと判を押してもらえた。全部埋めると、最終日に何かもらえる。鉛筆だったかノートだったか、大したものではない。それでも、あれのために起きていた。
眠かった。暑かった。それでも毎朝、六時半に公園にいた。
判で押したような毎日だった。
……いや、ほんまに押しててんけどな。
参照した記事
- 【いらない?廃止?】夏休みのラジオ体操はなくなった?ラジオ体操を残したい1級指導士の想い - 一般社団法人ラジーン(一般社団法人ラジーン / 2026-07-07 / 参照 2026-08-05)
- ラジオ体操の行事に関すること | NPO法人全国ラジオ体操連盟(NPO法人全国ラジオ体操連盟 / 参照 2026-08-05)
- 【2026年】第108回夏の甲子園 日程・開会式・抽選会まとめ|最新のタイムスケジュールと観戦・視聴ガイド – SPOBASE(Teams / 参照 2026-08-05)
※この文章はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
この連載について
『天声人誤 ——ある誤読者の手記』は、東京都飽留野市(架空)に住むタウン誌記者・中村悟が 書いている、という体裁の不定期連載です。
世の中の出来事、街の日常、走った先で見たもの——何でも扱いますが、語り手はそのすべてを 少しずつ読み違えます。実在の出来事に触れた回では、参照した記事へのリンクを末尾に置いています。
更新は不定期。ネタが溜まったときに書きます。
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