YMO世代の気持ち -ノベル館-

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第1話:四月一日、新品の鳴き声

四月一日。カレンダーの数字が切り替わると同時に、街全体の彩度が一段階上がったような錯覚に陥る。
 駅へ続く道は、糊のきいた真っ白なシャツと、まだ体に馴染んでいないリクルートスーツの群れで溢れていた。彼らは期待と緊張を等分に混ぜ合わせたような顔をして、まるで出荷されたばかりの精密機械のように整然と歩いていく。

 僕が管理する「街の図書室」も、今日はどことなく落ち着かない空気が漂っている。
 実は僕も今日、一つだけ「新品」を導入した。三年間履き潰して底が抜けたスニーカーを引退させ、管理人としての威厳を出すために奮発して買った、少し良い革靴だ。
 ところが、これが大失敗だった。歩くたびに「ギュム、ギュムッ」と、湿ったカエルを踏み潰したような、なんとも情けない音が響くのだ。

 静寂が売りの図書室において、この音は致命的だ。
 返却された本を棚に戻すたびに「ギュム」。窓を開けに行けば「ギュギュムッ」。
 隅の席で難解そうな哲学書を広げている常連の老紳士の前を通りかかる時、音を立てまいと抜き足差し足で歩いた結果、逆に「ギュウゥゥ……」と、長く尾を引く不吉な音が鳴り響いた。
 老紳士がゆっくりと顔を上げた。僕は反射的に「あ、これは、その、伝統的な製法の証と言いますか……」と、自分でも意味不明な弁明を口にしかけた。彼は僕の足をじっと見つめ、一言、「……元気な靴だね」とだけ言って、再び本の世界へ戻っていった。

 夜、図書室を訪れた透子は、僕の足元を一瞥するなり鼻で笑った。
「湊くん、それ威厳っていうか、不審者の忍び足に失敗した音だよ。明日までに油でも差しておけば?」
「革靴に油を差すのは、多分メンテナンスの方向性が違うと思う。それに、新品を無理やり馴染ませようとするのは、どこか自分を騙している気がして嫌なんだ」
「出た。そういう面倒くさいこだわり、四月には一番向いてないよ」
 彼女は呆れたように肩をすくめ、僕が淹れたコーヒーを一口飲んだ。

 新しくなるということは、こうして周囲に違和感を撒き散らしながら、自分を摩耗させていく過程なのかもしれない。
 僕は「ギュムッ」と鳴る靴を脱ぎ、スリッパに履き替えた。明日もまた、あのカエルと一緒に歩かなければならない。せめて、もう少しだけ控えめな鳴き声になってくれることを祈りながら。