日曜日の夜。テレビから流れるアニメの主題歌が、明日という名の現実が忍び寄る足音のように聞こえる。
ふと手に取ったスマートフォン。SNSのタイムラインをスクロールすると、そこには「完璧な日曜日」の標本が並んでいた。
有名店の色鮮やかなブランチ、遠出した先の抜けるような青空、そして「今週も充実してました!」という、一点の曇りもない言葉たち。
それらと比較して、自分の一日はどうだっただろう。
昼過ぎまでパジャマで過ごし、昼食は昨夜の残りの冷めたスープ。午後は古い小説の背表紙を眺め、透子と「次の冬までにコタツを買うべきか」という、結論の出ない議論を二時間も続けた。
写真に撮れば「映えない」どころか、画面が灰色に沈んでしまいそうな時間。
けれど、僕が今日一番心を動かされたのは、透子が「コタツがあったら、私は一生そこから出ない自信がある」と断言した時の、妙に誇らしげな鼻の形だった。そんなものは、SNSのどこを探しても共有されていない。
「湊くん、またスマホ見て眉間にシワ寄せてる。誰かの幸せに嫉妬でもしてるの?」
キッチンから、麦茶を持ってきた透子が声をかけてきた。
「嫉妬というか、違和感かな。みんなが『見せるための幸せ』を競い合っている間に、本当に自分だけが感じた小さな喜びが、指の間からこぼれ落ちているような気がして」
「いいんじゃない? みんな、寂しいのよ。自分が幸せだって誰かに承認されないと、その幸せが幻になっちゃう気がするのかもね」
透子はソファに座り、僕の肩に頭を預けた。
「でも、私は今のこの、お茶がちょっと薄いとか、明日の仕事が嫌だとか、そういう地味なリアルの方が安心するけどな」
画面の中の青空は、いつまでも色褪せない。けれど、僕たちの手元にある「濁った日常」は、刻一刻と形を変えて消えていく。
明日になれば、また「正解」を求められる一週間が始まる。
僕はスマホの電源を切り、暗くなった画面に映る自分の、少しだけ情けない顔を見た。そこには加工もフィルターもない、ただの二十三歳の男がいた。
それでいいのだと、自分に言い聞かせながら、僕は深い溜息を一つだけついて、眠りにつく準備を始めた。