深夜二時。寝付けない夜、僕は部屋を抜け出して近くのコンビニへと向かう。
街灯だけが等間隔に並ぶ静まり返った道路。そこにあるコンビニの青白いネオンは、まるで暗い宇宙を漂う宇宙船のハッチのように見える。
この時間のコンビニには、不思議な連帯感がある。
ジャージ姿の大学生、疲れ切った顔のタクシー運転手、そして僕。誰もが「今、自分はこの世界の表舞台から降りている」という自覚を共有している。ここでは昼間の肩書きも、SNSでの評価も、何の意味も持たない。
レジ袋の中に、アイスの実とホットのスナックを一緒に入れる。温度が混ざり合う、背徳的な買い物。
レジを担当していたのは、名札に『研修中』と書かれた、少し眠そうな青年だった。
彼はマニュアル通りの「三本の歯を見せる笑顔」を忘れていた。代わりに、欠伸(あくび)を噛み殺したような、少しだけ歪んだ素の顔をしていた。
その顔を見て、僕はなんだかホッとした。
完璧に調整された昼間の笑顔よりも、深夜二時の、少しだけだらしない素顔の方が、ずっと信頼できるように感じたからだ。
「……五百四円です」
彼の声は低く、どこか投げやりだった。けれど、その投げやりさは僕を拒絶するものではなく、「お互い、こんな時間に大変だよね」という無言の共感を含んでいるように思えた。
僕は小銭を出しながら、ふと思う。
昼間の社会が「理想の自分」を演じる舞台だとしたら、深夜のコンビニは、剥き出しの自分を一時的に預けられる、避難所のような場所なのかもしれない。
帰り道、冷たい空気にアイスを一口齧る。
甘さが脳に染み渡ると同時に、少しだけ自分が許されたような気がした。
明日、また「管理人」という仮面を被って、図書室のカウンターに立つために。
この深夜の、誰にも見られない数分間の逃避が、僕の精神の均衡を保っている。
宇宙船のハッチが閉まるように、コンビニの自動ドアが背後で静かに閉じた。