日曜日の午後、図書室の窓から見える街並みは、どこか強迫観念に突き動かされているように見える。
家族連れやカップルが、まるで「充実した休日」というノルマを達成しなければならないかのように、忙しなく歩いている。
SNSを開けば、誰かの「最高の日曜日」が溢れている。
キラキラした食事、感動的な風景、愛に満ちた言葉。それらを見ていると、ただ図書室で静かに本を読んでいるだけの自分や、昨日の残りのカレーを温めて食べただけの自分が、何か重大な損をしているような気分にさせられる。
「湊くん、またスマホを見て、心の毒素を溜めてるでしょ」
カウンターに返却本を持ってきた透子が、僕の顔を覗き込んだ。
「……透子。どうして人は、自分が幸せであることを、誰かに証明せずにはいられないんだろうね。自分だけが知っていれば、それで十分なはずなのに」
「それはね、幸せに『自信』がないからよ。誰かに『いいね』って言ってもらわないと、その幸せが賞味期限切れのまがい物に見えちゃうの。幸福の価値が、他人の指先一つに委ねられてるなんて、不自由な話だよね」
彼女は、返却する本の上に自分の手を重ねた。
「でも、私は今のこの、図書室の古い紙の匂いとか、湊くんの偏屈な独り言とか、そういう『写真に撮っても伝わらないこと』の方が、ずっと鮮やかだと思うけどな」
「……写真に撮っても伝わらないこと、か」
「そう。最高の瞬間って、カメラを向けるのを忘れるくらい、その場に没頭してる時でしょ。画面越しに世界を見てる間に、本物の空気は指の間から逃げていくのよ」
透子はそう言って、僕のスマホを裏返した。
日曜日の夜、明日の仕事の準備をしながら感じる微かな憂鬱も、夕食の後に飲む少し冷めたお茶も、僕たちだけの秘密の幸福だ。
誰かに承認されなくても、僕の心は、今日という一日をちゃんと「豊かだった」と記憶している。
僕は窓の外の喧騒を眺めながら、自分だけの、静かで濁った幸せをそっと抱きしめた。