「湊くん。来月のデートなんだけど、この共有カレンダーに候補日を三つ入れておいたから。あと、行きたいお店のURLも貼っておいたから、選んでおいて」
火曜日の夜、透子がスマートフォンを操作しながら事務的に言った。
共有カレンダー。効率化。選択肢の提示。
彼女のやり方は完璧だ。無駄なやり取りを省き、互いの時間を尊重した、現代的でスマートな交際。
けれど、僕の心の中には、何とも言えない「引っかかり」が生まれていた。
「透子。デートって、もっとこう……『来週、何しようか』って、あてもなく話し合う時間も含めての楽しみなんじゃないかな。最初から最適解を提示されると、なんだか仕事のタスクをこなしているみたいで、少し寂しい」
「寂しい? 何言ってるの。忙しい中で時間を合わせるには、これが一番効率的でしょ。湊くんだって、図書室の仕事でダブルブッキングしたら困るでしょ?」
「それはそうだけど……。効率化を進めて余った時間で、僕たちは一体何をしようとしてるんだろう」
透子は、少しだけイラついたようにスマートフォンを置いた。
「余った時間で、ゆっくり休むのよ! 湊くんは分かってない。私の毎日が、どれだけ『選択』の連続で削られてるか。デートの時くらい、何も考えずに、決まったレールの上を歩きたいの」
彼女の言葉は、悲鳴のようだった。
効率を求めるのは、彼女が冷たい人間だからではない。そうしなければ、彼女の精神が崩壊してしまうほど、日常が過密だからなのだ。
僕が求めている「寄り道」や「無駄」は、彼女にとっては、さらなる疲労を強いる「コスト」になってしまっている。
「……分かった。カレンダー、確認しておくよ」
僕はそう言って、彼女の隣に座った。
愛することさえも効率化の波に飲まれていく中で、僕たちが最後に守るべき「聖域」は、一体どこにあるのだろう。
共有カレンダーに刻まれた青い印が、僕にはどうしても、小さな檻の格子のように見えて仕方がなかった。