四月の最終日。僕はカウンターで、この一ヶ月の図書室の運営記録をまとめていた。
貸出冊数、来館者数。数字で表される実績は、決して芳しいものではない。効率重視の経営者から見れば、この場所は「赤字の不良債権」でしかないだろう。
「湊くん。今月の私の決算、聞きたい?」
閉店後、透子が疲れ切った顔で現れた。
「いくらだった?」
「残高はマイナス。精神的な貯金は全部使い果たしたわ。残ったのは、行きたくもない飲み会の領収書と、誰にも言えない溜息の山」
彼女はカウンターに突っ伏した。
四月。僕たちは新しい自分になろうと足掻き、社会に適応しようと背伸びをしてきた。その「請求書」が、今、心と体に届いている。
僕は彼女の隣に座り、窓の外を眺めた。
「数字にはならないけれど、手元に残ったものもあるよ。あのトーストの味とか、埃のダンスとか、雨の日のココアとか」
「……そんなの、一円にもならないわよ」
「一円にもならないからこそ、誰にも奪われないんだ。それは、僕たちだけの純粋な利益だよ」
明日からは五月。さらに緑が濃くなり、風が熱を帯び始める。
信号が青になっても、まだ足がすくむかもしれない。けれど、この四月を一緒に生き延びたという事実だけが、僕たちの足元を静かに支えている。
「……ねえ、湊くん。五月になったら、少しだけ遠くへ行こうか。効率なんて無視して、ただ、綺麗な空気がある場所へ」
「いいよ。カレンダーには入れずに、その日の気分で決めよう」
透子は小さく頷き、僕の手を握った。
四月の終わり。信号機が青に変わる。
僕たちは、まだ少しだけ震える足で、新しい季節へと一歩を踏み出した。