YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

第31話:五月の陽光と、太陽の卵

五月。暦がめくられた途端、風の匂いが変わった。
 四月のどこか刺すような冷たさが消え、代わりに、若葉が光を反射して放つ、生命力に満ちた青臭い香りが街を包んでいる。

 世間は「ゴールデンウィーク」という華やかな響きに浮き足立っている。けれど、図書室を訪れる人々や、仕事帰りの透子(とおこ)の顔には、その光が少し眩しすぎるようだった。
「ねえ、湊くん。世の中が休みモードになればなるほど、私の仕事が増えるのは、どういう物理法則なの?」
 玄関を開けるなり、透子がそうぼやいた。彼女が担当している連休明けのキャンペーン準備が、いよいよ佳境に入っているらしい。
「それは、誰かの『非日常』を支えるために、誰かの『日常』が削られているっていう、社会のトロッコ問題だよ」
「難しいことはいいから。今はただ、目にも心にも優しいものが食べたい……」

 彼女はソファに沈み込み、五月の眩しい夕日を避けるように目元を腕で覆った。
 僕はキッチンに立ち、この時期ならではの食材を取り出した。アスパラガスだ。
 シュッと伸びたその姿は、まるで新しい季節へ向かう矢印のよう。それをじっくりと焼き、その上に、とろりとした半熟の目玉焼きを乗せる。

「はい、お疲れ様。五月の最初のご馳走だよ」
 テーブルに置かれたのは、『アスパラガスのビスマルク風』。
 鮮やかな緑の上に、太陽のような黄色い卵黄が揺れている。
「……綺麗。なんだか、食べるのがもったいないくらい」
 彼女はフォークで卵黄をそっと突いた。溢れ出した黄金色のソースが、焼きたてのアスパラガスに絡んでいく。

「美味しい。アスパラのほろ苦さが、一週間分の毒を抜いてくれるみたい」
「苦味は、冬を乗り越えた植物の知恵だからね。僕たちも、少しだけその強さを分けてもらおう」
 金曜日の夜。外では明日からの連休を祝う喧騒が聞こえるけれど、この小さなキッチンには、ただ卵が焼ける香ばしい匂いと、穏やかな沈黙が流れていた。
 信号が青になっても、走り続けられない日がある。そんな時は、一皿の料理を太陽に見立てて、ゆっくりと体温を戻せばいい。


湊の金曜レシピ:アスパラガスのビスマルク風

仕事で疲れ果てた金曜夜でも、これなら10分で作れます。
アスパラガスの「苦味」と卵の「まろやかさ」の対比を楽しんでください。

【材料】(1〜2人分)
* アスパラガス … 1束(4〜5本)
* 卵 … 1個
* 粉チーズ … たっぷり
* オリーブオイル … 大さじ1
* 塩・胡椒 … 少々

【作り方】
1. アスパラガスは根元の固い部分を切り落とし、下から3cmほどピーラーで皮を剥く。
2. フライパンにオリーブオイルを熱し、アスパラを中火で焼く。少し焼き色がつくまで転がし、塩少々を振って皿に盛る。
3. 同じフライパンで目玉焼きを作る。白身はカリッと、黄身は「とろとろ」の半熟にするのがポイント。
4. アスパラの上に目玉焼きを乗せ、粉チーズ、胡椒をたっぷり振れば完成。

【湊のひと言】
「卵黄をソースのようにアスパラに絡めて食べてください。行儀悪く、お皿に残った卵をパンで拭って食べるのが、金曜夜の正しい作法です」