YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

第32話:連休の影と、透明な椅子

ゴールデンウィークの初日。駅の改札からは、大きなスーツケースを引きずった人々が、弾けるような笑顔と共に吐き出されていく。
 一方で、僕が管理する図書室には、その熱狂から取り残されたような、あるいは自ら距離を置いたような人々が、吸い寄せられるように集まってくる。

「湊さん、今日も開いててよかった。どこへ行っても人ばかりで、自分の居場所がなくなっちゃったのかと思ったよ」
 常連の中学生、ハルトくんが少し疲れた顔でやってきた。彼の友人たちは皆、家族旅行やテーマパークに出かけているらしい。
「図書室は、逃げてくる人のためにある場所でもあるからね。ここは年中無休、君の椅子は空いているよ」

 ハルトくんは、お気に入りの隅の席に座り、おもむろに数学の問題集を広げた。
 世間が「非日常」を謳歌している時、あえて「日常」を死守することは、一つの贅沢であり、同時に静かな抵抗でもある。
 昼過ぎ、仕事中の透子から写真が送られてきた。そこには、大量の付箋が貼られたホワイトボードと、食べかけの冷めたハンバーガーが写っていた。
『GW初日の戦績:会議5本、進捗20%。外から楽しそうな笑い声が聞こえるたびに、私のHPが削られていくわ』

 誰かの休暇は、誰かの労働によって支えられている。
 ハルトくんのような「休めない子供」と、透子のような「休めない大人」。
 賑やかな街の喧騒の裏側に、こうして静かに、しかし確実に存在している人々の輪郭を、僕は今日もしっかりと見届けていたい。
 窓の外では、眩しい太陽がすべてを平等に照らしている。けれど、光が強ければ強いほど、その陰に隠れる人々の姿もまた、濃く浮き彫りになっていくのだ。