YMO世代の気持ち -ノベル館-

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第36話:祭りのあとのリハビリテーション

五月六日、水曜日。大型連休という名の「魔法」が解け、街には再び灰色に近い日常が戻ってきた。
 駅のホームに並ぶ人々の顔は、連休前よりもさらに数段、険しさを増しているように見える。長い休息は、必ずしも活力を与えるわけではない。むしろ、一度緩んだゼンマイを再び巻き直すための、ひどい苦痛を伴う「リハビリ」が必要なのだ。

 図書室にやってくる常連さんたちも、今日はどこか上の空だ。
「湊さん……パソコンのパスワード、忘れちゃったよ。たった数日触らなかっただけなのに、自分が何をしていた人間なのか、思い出せないんだ」
 近くのIT企業に勤める男性が、力なく笑いながら言った。
「それは脳が、まだ『何もしなくていい自分』を守ろうとしている証拠ですよ。無理に思い出そうとせず、今日はゆっくり本でも眺めて、リハビリしていってください」

 僕はそう答えたものの、自分の中にも微かな綻びを感じていた。
 信号が青になっても、以前のような速度で足が動かない。社会という巨大な回路に再び接続されることへの、本能的な拒絶。
 夜、帰宅した透子(とおこ)は、リハビリどころか「強制再起動」をかけられたPCのように、熱を帯びてフリーズしていた。

「……湊くん。今日だけで未読メールが三百通。そのうち半分が『至急』。至急って言葉、辞書から消してやりたい。みんな、休み明けに他人を追い込むことでしか、自分の生存を確認できないのかしら」
「お疲れ様。みんな、自分が止まっていた分、世界が遅れているような焦りを感じているんだろうね」
「焦りじゃないわよ、ただの嫌がらせよ。……ねえ、もう一回、昨日の朝に戻れないかな。鯉のぼりを見上げて、呑気に平和を語っていた昨日に」

 彼女は化粧も落とさずソファに沈み込んだ。
 祭りのあとの静寂は、時として祭りそのものよりも残酷だ。
 僕は黙って彼女の隣に座り、ただ時計の針が刻む一定のリズムを聴いていた。
 明日には、もっと激しい現実が彼女を襲うだろう。けれど、今この瞬間だけは、リハビリ中の静かな時間を共有していたかった。