YMO世代の気持ち -ノベル館-

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第43話:座標が指し示す場所(赤の糸)

水曜日の朝。僕は昨夜からずっと気になっていた、あの付箋の裏に書かれた謎の数字を調べていた。
 それはやはり、緯度と経度を示す座標だった。スマートフォンでその場所を検索してみると、図書室から歩いて十五分ほどの場所にある、古い神社の裏手にある小さな空き地を指していた。

「湊くん、まさか本当に行くつもり? 罠かもしれないよ。あるいは、ただのいたずらか」
 出勤前の透子(とおこ)が、僕の様子を見て呆れたように言った。
「罠だとしても、確かめてみたいんだ。この人は、僕を試しているんじゃなくて、何かを『見てほしい』と思っている気がするから」

 僕は午前中の静かな時間を利用して、その場所へ向かった。
 住宅街の奥、木々に囲まれた神社の裏。そこには、かつては家が建っていたのであろう、石積みだけが残された小さな空き地があった。
 地面にはシロツメクサが広がり、その中心に、一つだけ場違いな「鉄の塊」が埋もれていた。

 それは、古びた手押し式の井戸のポンプだった。
 錆びつき、レバーは動かなくなっている。けれど、そのポンプの根本に、新しく供えられたような一輪の黄色い花と、小さなメモが置かれていた。
『ここは、この街で一番最初に「効率」に見捨てられた場所です。でも、今でも地下では水が流れる音がします。湊さん、目に見える建物が消えても、流れているものは消えません』

 背筋に冷たいものが走った。
 付箋の主は、再開発で消えゆく街の記憶を、僕に繋ぎ止めさせようとしている。
 僕はしばらくその場所に立ち尽くし、耳を澄ませた。風が木々を揺らす音の向こう側に、確かに、地底を流れる水脈の鼓動が聞こえたような気がした。
 信号が青になるのを待つ世界の外側には、まだこんなにも深い沈黙が残っている。