YMO世代の気持ち -ノベル館-

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第48話:図面の中の不在(白の糸)

月曜日の夜。公民館の会議室は、再開発計画の説明を聞きに来た住民たちで埋め尽くされていた。
 正面のプロジェクターには、色鮮やかな完成予想図が映し出されている。緑豊かなテラス、ガラス張りの商業施設、そして「多目的スペース」と名付けられた、無機質な広場。

「……以上が、この街を次世代へ引き継ぐための最適解です。何かご質問はありますか?」
 デベロッパーの男性が、完璧な「十五度の笑顔」で会場を見渡した。
 誰もが顔を見合わせ、沈黙が流れる中、僕は震える手でマイクを握った。

「……湊と申します。街のシェア・ライブラリーを管理しています。この図面は、とても美しく、効率的です。でも、一つだけお聞きしたい。この図面のどこに、『意味のない場所』がありますか?」
 会場に、当惑したようなざわめきが広がった。
「意味のない、とはどういうことでしょう?」
「例えば、ただ雨宿りをするだけの軒下や、誰に頼まれたわけでもなく湧き続けている井戸、あるいは、一文字も書かずにただ座っていられる図書室の隅の席……。そういう、一円の利益も生まないけれど、誰かの心が避難できる場所は、この新しい街にありますか?」

 男性は一瞬だけ表情を曇らせ、すぐに事務的な口調で答えた。
「多目的スペースがその役割を担います。ベンチも十分に配置し、誰でも利用可能です」
「目的のない場所は、多目的スペースにはなり得ません。目的を強要される場所では、人は本当の休息を得られないんです」

 僕の発言に、失笑が漏れた。「若いくせに理想ばかり」「そんなので街が潤うか」。
 けれど、会場の隅で、あの「重じい」が、深く頷いているのが見えた。
 僕はそれだけで十分だった。正解を出せなくても、問いを立てる。それが、信号が青になっても立ち止まってしまう僕にできる、精一杯の抵抗だった。