YMO世代の気持ち -ノベル館-

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第57話:屋根裏のタイムカプセル(白の糸)

水曜日の午後。文化財調査員の女性と共に、僕は普段立ち入ることのない図書室の屋根裏へと足を踏み入れた。
 梯子(はしご)を登った先は、何十年分もの埃(ほこり)と、どこか懐かしい木の匂いに包まれた、静寂の塊のような空間だった。

「湊さん、見てください。この梁(はり)の組み方……やはり当時の優れた職人の手によるものです」
 調査員がライトで照らした先には、太い木の幹が、互いに支え合うように複雑に組まれていた。それは、現代の図面には描かれない、生きた知恵の結晶のようだった。
 その隅に、小さな木箱が置かれているのを見つけた。中には、色褪せた古い手紙が一通だけ入っていた。

『この家を次に受け継ぐ方へ。ここは、戦後の混乱の中でも、窓から差し込む光だけは変わらずに優しかった場所です。どうか、この場所をただの「箱」だと思わないでください。ここには、かつてここで笑い、泣いた人々の、目に見えない吐息が積み重なっているのですから』

 それは、この家を建てた前の住人が残した、未来へのメッセージだった。
 手紙を持つ僕の手が、微かに震えた。デベロッパーの人々が「効率」と呼ぶものの外側に、これほどまでに重い「想い」が取り残されていたのだ。

「湊くん、その手紙、本物なのね……」
 夜、報告を聞いた透子(とおこ)が、僕が書き写した手紙の一節を読み上げ、静かに呟いた。
「……想いがあるから、壊してはいけない。そんな理屈、今の社会じゃ一円の価値もないかもしれないけどさ。でも、この手紙を読んでしまった以上、僕はもう、ここをただの「建物」として見ることはできないよ」

 透子は僕の手からメモを取り、じっと見つめた。
「……分かってる。でもね、湊くん。想いを守るためには、時に誰よりも強くならなきゃいけないの。その手紙は、湊くんに渡されたバトンなんだから」
 信号が青になるのを待つ間、僕は屋根裏で感じた、あのひんやりとした静寂を思い出していた。