YMO世代の気持ち -ノベル館-

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第58話:『価値』の定義、あるいは測り方

木曜日。図書室のカウンターで、僕は昨日の手紙のことを考え続けていた。
 世の中には、二種類の「価値」がある。
 一つは、誰にでも分かる「数字」としての価値。坪単価、耐震等級、再開発による経済効果。それは明確で、議論の余地がない。
 もう一つは、本人にしか分からない「記憶」としての価値。窓辺に射す光の角度、階段の軋む音、そして屋根裏に残された古い手紙。

「湊さん。結局のところ、価値なんてものは、誰かがそれを『守りたい』と言い続けない限り、消えてしまうものなんだよ」
 調査員の女性が、帰りがけにそう教えてくれた。彼女は、これまでに数えきれないほどの「消えゆく場所」を見てきたのだろう。

 夜、帰宅した透子にその話をすると、彼女は意外にも冷めた表情で答えた。
「……厳しいわね。でも、それが現実よ。私の仕事もそう。どんなに素晴らしい商品でも、価値があるって言い続けないと、一瞬で消費されて忘れられちゃう。守るっていうのは、戦い続けることなのよ」

 彼女はそう言って、僕が用意した夕食を無造作に口に運んだ。
「でもさ、透子。戦うのが苦手な人間は、どうすればいいんだろう。僕はただ、ここにある静かな時間を、そのままにしておきたいだけなんだ」
「……だったら、その『静かさ』に、誰にも否定できないほどの名前をつけなさい。それが、管理人の仕事でしょ?」

 透子の言葉は、相変わらず鋭く、そして正しい。
 僕は窓の外で点滅する信号機を見つめた。
 名前のない価値を守るために、僕はどんな言葉を紡げばいいのだろう。
 僕は、明日からの自分の役割について、深い溜息と共に問いかけ続けていた。