YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

第61話:五月の決算、六月の雫

五月三十一日、日曜日。予報通り、朝からしとしとと静かな雨が降り始めた。
 五月のあの突き抜けるような光を、すべて優しく覆い隠すような、淡い灰色の空。

 僕はカウンターで、今月の「心の収支報告書」をまとめていた。
 再開発の波、井戸の発見、説明会での孤独、そして屋根裏で見つけた手紙。
 感情の振れ幅が大きすぎて、数字では到底表しきれない一ヶ月だった。

「湊くん。私の今月の収支は……ギリギリ黒字かな。湊くんが作ってくれた、あの変な料理たちのおかげで、なんとか会社を辞めずに済んだわ」
 透子が、雨に濡れたビニール傘を畳みながら笑った。
「……それは良かった。僕の方も、誰かの想いを受け継ぐっていう、大きな『借金』をした気分だよ。一生かけても返せるかどうか分からないけど」

 僕たちは、並んで窓の外の雨を眺めた。
 紫陽花の蕾が、雨に打たれて少しずつ膨らみ始めている。
 明日からは六月。新しい「不自由」と、新しい「静寂」の季節が始まる。

「ねえ、湊くん。雨の日って、世界が少しだけ狭くなるから好き。……湊くんと私の間にある、この小さな場所だけが、本当の世界に見えるから」
 彼女は僕の肩に、そっと頭を乗せた。
 信号は、雨の向こう側でぼんやりと赤く光っている。
 青になるのを待つ時間は、まだ終わらない。けれど、この雨音の中で、僕たちはまた少しだけ、自分たちの根を深く、地底の水脈へと伸ばしていけるような気がした。

 五月が、雨の中に静かに消えていった。