YMO世代の気持ち -ノベル館-

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第66話:憂鬱を干し上げる、生姜の温もり

金曜日の夜。外は土砂降りだった。
 透子が玄関を開けた時、彼女の体からは、冷たい雨の匂いと、芯まで冷え切った焦燥感が漂っていた。
「……湊くん。もう、体が重くて動かない。指先までふやけて、自分が溶けて消えちゃいそう」
 彼女はカバンを投げ出し、そのまま床に座り込んだ。梅雨の閉塞感と、仕事の停滞。六月の第一週目は、彼女の精神をじわじわと削り取ったらしい。

 僕はキッチンに立ち、大きな生姜(しょうが)を手に取った。
 湿った空気から身を守るには、内側から熱を灯すのが一番だ。
 今日は、彼女の好きな豚肉を、たっぷりの生姜と少しの蜂蜜で炒める。ピリッとした刺激と、優しい甘さ。それは、濡れた心を乾かすための、僕なりの「お日様」の代わりだ。

「……いい匂い。生姜の香りを嗅ぐだけで、鼻の奥が通る気がする」
 透子が、吸い寄せられるようにテーブルについた。
「はい、お疲れ様。六月の雨を干し上げる、『豚の生姜焼き・梅雨仕様』だよ」
 皿に盛られた肉には、すり下ろしたての生姜がたっぷりとかかっている。

「……美味しい! 喉を通る時、体がポカポカしてくる。私、冷え切ってたんだね」
 彼女は夢中で箸を動かした。
「生姜はね、滞った巡りを良くしてくれるんだ。心に溜まった湿気も、一緒に追い出してくれるよ」
「……湊くん、ありがとう。私、明日もお休みだけど、雨でもいいやって思えてきた。この生姜の温もりが、私の中の『青空』の代わりになるから」

 金曜日の夜。激しい雨音は、いつの間にか優しい子守歌のように聞こえ始めていた。
 信号が青になっても、雨の中を急ぐ必要はない。
 温かい食事で心を満たし、新しい一週間へ向けて、ゆっくりと体温を整えればいいのだから。


湊の金曜レシピ:雨の日の「芯から温まる厚切り生姜焼き」

梅雨の冷えと湿気で体が重い夜に。
生姜の「温め効果」と豚肉の「ビタミンB1」が、疲労を根こそぎ吹き飛ばします。

【材料】(2人分)
* 豚ロース肉(生姜焼き用) … 200〜250g
* 玉ねぎ … 1/2個(薄切り)
* 小麦粉 … 少々
* 油 … 大さじ1
* (合わせ調味料)
* 生姜(すり下ろし) … 大さじ1強(たっぷり!)
* 醤油 … 大さじ2
* 酒・みりん … 各大さじ1
* 蜂蜜(または砂糖) … 小さじ1

【作り方】
1. 豚肉に軽く小麦粉を振る。これが旨みを閉じ込め、タレをよく絡ませるコツです。
2. フライパンに油を熱し、玉ねぎを透き通るまで炒める。
3. 豚肉を加え、両面に軽く焼き色がつくまで焼く。
4. 合わせ調味料を一気に入れ、強火でタレを煮絡める。
5. タレにとろみがつき、肉にしっかりと絡んだら完成。

【湊のひと言】
「蜂蜜を入れることで、コクが出て冷めにくくなります。キャベツの千切りを添えて、タレに浸しながら食べるのがおすすめです。雨音を聴きながら、ゆっくり召し上がれ」