日曜日の夕暮れ。図書室の軒先に咲く紫陽花(あじさい)が、雨に濡れて鮮やかな青色を放っている。
紫陽花の色は、土の酸性度によって変わるという。置かれた環境によって、自分の色を変えてしまう花。それはどこか、社会という土壌に染まっていく僕たちの姿に似ている。
「湊くん。紫陽花って、ずるいよね。周りに合わせて色を変えて、綺麗だって言われて。……私も、会社に行くと自分が何色なのか分からなくなるわ」
透子が、窓の外の青を見つめながら、重い溜息をついた。
明日は月曜日。再び「広告代理店の透子」という色に染まらなければならない時間が近づいている。
「色を変えるのは、生き残るための知恵だよ。でもさ、透子。どんなに外側の色が変わっても、根っこの部分は変わらない。君が紫陽花なら、僕はその土を、君が君らしくいられるように整え続けるよ」
「……それ、プロポーズのつもり? それとも、ただの肥料の宣伝?」
彼女は皮肉っぽく笑ったけれど、その横顔には微かな安らぎが浮かんでいた。
日曜日の夜、世界は再び「戦闘準備」のために静まり返る。
雨音に混ざって、どこかで遠い電車の音が聞こえる。
どんなに土の色が厳しくても、自分だけの「青」を失わないように。
僕は彼女のために、明日の朝に飲むための、少し強い香りの紅茶を準備した。
信号が青になっても、自分の色を見失わずに歩いていけるように。