日曜日の夕暮れ。図書室の電話が、閉館間際に鳴り響いた。
ディスプレイに表示されたのは、登録のない番号。けれど、僕はなぜか、その予感に胸が騒いだ。
「……はい、シェア・ライブラリーの湊です」
受話器の向こうからは、雨音に混ざって、微かな、しかし規則的な「呼吸」の音が聞こえた。
「……凑さん。あなたの決意は、本物ですか?」
低くて、感情を抑えた声。それは、あのピンク色の付箋の主を連想させた。
「……どちら様ですか?」
「私は、ただの観測者です。ですが、あなたが動けば、止まっていた水脈も動き出します。……気をつけて。綺麗な言葉は、時として本物の記憶を、より深く埋め殺してしまいますから」
電話は、一方的に切れた。
ツーツーという無機質な音が、静まり返った館内に響く。
外に出ると、透子が駅の方から歩いてくるのが見えた。彼女の足取りは力強い。けれど、今さっきの電話の声が、僕の胸に冷たい棘を残していた。
「綺麗な言葉は、記憶を埋め殺す」。
それは、透子が今やろうとしていることへの、警告なのだろうか。
信号が赤に変わる。
僕は傘を差し、彼女を迎えるために歩き出した。
新しい一週間が、すぐそこまで迫っていた。