日曜日の午後、図書室は驚くほど静かだった。
昨日出会った潮里さんの言葉が、古い蓄音機の針が飛ぶように、僕の頭の中で何度も繰り返される。記録すること。守ること。そして、排除されること。
「湊くん、またそんな『世界の終わり』みたいな顔して。潮里さんだっけ? その人に毒でも盛られたの?」
カウンターで新商品のキャッチコピーを考えていた透子(とおこ)が、僕の眉間を指で小突いた。
「毒じゃないよ。ただ、僕たちがやろうとしていることが、いかに脆いものかを知らされただけなんだ」
「脆いのは当たり前じゃない。形があるものは全部壊れるのよ。だから私たちは、形のない『言葉』や『記憶』に価値を付けて、必死に延命させてるの。……ほら、これ見てよ」
彼女が提示したのは、新しいパンフレットのラフ案だった。そこには、屋根裏で見つけたあの手紙の一節が、美しくデザインされた文字で引用されていた。
『継承される想い、次世代への贈り物』。
デベロッパーが喜びそうな、完璧に「浄化」された言葉たち。
「これ、屋根裏の手紙を書いた人が見たら、どう思うかな」
「……喜ぶわけないでしょ。自分の切実な遺言が、マンションを売るためのスパイスにされてるんだから。でもね、こうでもしないと、その手紙自体がゴミとして捨てられちゃうのよ。湊くん、これこそが私の『現実』なの」
透子の言葉は、彼女自身の心も削っているように聞こえた。
日曜日の夜、外ではまた激しい雨が降り始めた。
明日になれば、この「美化された現実」が動き出す。信号が青に変わるその時、僕たちが踏み出すのは、果たして自分たちの守りたい場所なのだろうか、それとも誰かに用意された舞台なのだろうか。