土曜日。僕は潮里さんから預かった資料を手に、地元の新聞社へと向かった。
「書き留める」という僕の決意が、具体的な行動へと変わった瞬間だった。
記者は僕の話を静かに聴き、資料の一枚一枚を、息を呑むように確認していった。
「……湊さん。これは、この街の未来を大きく変えることになるかもしれません。……覚悟は、できていますか?」
「覚悟なんて、いつまで経ってもできません。でも、あの井戸の音を聴いてしまった以上、僕はもう、聞こえないふりをして生きることはできないんです」
新聞社を出ると、雨は小降りになり、雲の隙間から微かな光が差し込んでいた。
図書室に戻ると、透子がエプロン姿で本の整理を手伝ってくれていた。
「湊くん、お疲れ様。……出したのね、あの資料」
「ああ。来週の朝刊に、小さな記事が出るはずだ」
彼女は僕の顔を見て、柔らかく微笑んだ。
「いいじゃない。月曜日が楽しみなんて、人生で初めてかもしれないわ」
信号は点滅から、ゆっくりと変わろうとしている。
僕たちが投げた小さな石が、どんな大波を巻き起こすのか。
土曜日の静寂の中で、僕たちはその予感に身を委ねていた。