七月一日。水曜日の朝。
梅雨の湿り気を一瞬で焼き尽くすような、暴力的なまでの夏の日差しが街を貫いた。
僕は早朝、図書室のポストに投げ込まれた朝刊を手に取った。インクの匂いがいつもより鼻を突く。社会面の中ほどに、僕が持ち込んだあの資料を元にした記事が、静かに、しかし確かな重みを持って掲載されていた。
『再開発計画、地質調査に不備か。特定湧水域への影響隠蔽の疑い』
その小さな文字が、この街の「平和な青信号」を強制的に赤に変えてしまう。
僕は震える指で紙面を撫でた。これで、もう後戻りはできない。僕という個人の声が、公共の電波に乗って、巨大な組織の歯車に砂を放り込んだのだ。
「……本当に出ちゃったわね。これで、私の前の会社は今頃、蜂の巣を突いたような騒ぎよ」
エプロン姿の透子(とおこ)が、キッチンから顔を出した。彼女は今日から「何者でもない自分」として、図書室の手伝いをしてくれることになっていた。
「透子。……怖くないかい?」
「怖いなんて言ってられないわよ。自分の選んだ道だもん。……ねえ、湊くん。この記事を読んで、あのスーツの人たちがどんな顔をするか、想像するだけでちょっとだけスカッとするわ」
彼女はそう言って、僕の分のコーヒーをテーブルに置いた。
信号は青。けれど、その先に待ち構えているのは、僕たちの想像を絶する「現実の逆襲」だろう。
午前九時。図書室の電話が、鳴り止まないベルの音を響かせ始めた。
それは、新しい季節の幕開けを告げる、あまりに騒がしい産声のようだった。