金曜日の夜。七月最初の一週間は、僕たちにとって人生で最も長く、最も熱い一週間だった。
透子は会社という盾を失い、僕は街の平穏という盾を失った。二人とも、剥き出しの自分で社会と対峙し、心身ともに疲れ果てていた。
けれど、夜のキッチンに立つ透子の背中は、四月の頃よりもずっとしなやかに見えた。
「湊くん、今夜は私がお祝いを作るわ。……無職になったお祝いと、湊くんが勇気を出したお祝いよ」
「お祝い、か。……何を作るんだい?」
「暑気払いにぴったりの、元気が湧いてくるやつ。見てて」
彼女が取り出したのは、瑞々しいレモンと、たっぷりの夏野菜。
今日は、濃厚な肉料理ではない。七月の熱気を吹き飛ばし、酸味で心をシャキッとさせる『レモンと夏野菜の冷製パスタ』だ。
「……いい香り。レモンの皮を削るだけで、部屋の中が南の島になったみたいだ」
「でしょ? 自由っていうのはね、こういう爽やかな香りがするものなのよ。……はい、お待たせ。戦士たちのための、休息のひと皿よ」
皿に盛られたパスタは、黄色と緑が鮮やかで、見ているだけで喉が鳴った。
「……美味しい! 酸っぱさが、頭の中のモヤモヤを一気に溶かしてくれる」
「ビタミンCはね、ストレスを撃退する魔法の成分なんだから。……湊くん。明日からまた大変だろうけど、私たちが美味しいって思えるうちは、まだ負けてないわ」
金曜日の夜。レモンの爽やかな余韻が、僕たちの新しい門出を静かに祝福していた。
信号は青。その先がどれほど険しい道でも、このひと皿の味を覚えていれば、僕たちはまた歩き出せる。
湊の金曜レシピ:七月の焦燥を吹き飛ばす「レモンと夏野菜の冷製パスタ」
暑さで食欲がない夜や、新しいことに挑戦して神経が昂っている時に。
レモンの酸味とオリーブオイルのコクが、疲れた心身をリセットしてくれます。
【材料】(2人分)
* カッペリーニ(または細めのパスタ) … 160g
* レモン … 1個(半分は果汁、半分は飾り用。皮も少し削る)
* トマト … 1個(角切り)
* ツナ缶 … 1缶(オイルを切る)
* オリーブオイル … 大さじ3
* 塩・胡椒 … 少々
* あれば大葉(またはバジル) … 適量
【作り方】
1. ボウルに、レモン果汁、オリーブオイル、塩、胡椒を混ぜ、そこにトマトとツナを加えて冷蔵庫で冷やしておく。
2. パスタを袋の表示より30秒〜1分長く茹でる。
3. 茹で上がったパスタを氷水で一気に締め、水気をしっかり切る(ここが一番大事!)。
4. 冷やしておいたソースにパスタを和え、器に盛る。
5. 仕上げにレモンの皮をすり下ろし、大葉を散らせば完成。
【湊のひと言】
「コツは、パスタの水気をこれでもかというほど切ること。味がぼやけず、レモンの香りが引き立ちます。自由の味がするパスタ、ぜひ五感で楽しんでください」