YMO世代の気持ち -ノベル館-

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第97話:黒い封筒、月曜日の憂鬱

月曜日。社会が再び動き出すこの日、図書室にとっての「現実」もまた、容赦なくその姿を現した。
 午前中の郵便配達で、一通の厚みのある封筒が届いたのだ。差出人は、再開発事業を主導する大手デベロッパーの顧問弁護士事務所。
 中に入っていたのは、『通告書』と書かれた一枚の紙だった。

 内容は簡潔かつ威圧的だ。
 僕が新聞社に提供した資料は「社外秘情報の不正持ち出し」にあたり、事実無根の風評被害によって業務を妨害している、という主張。直ちに謝罪広告を出し、発言を撤回しなければ、法的措置も辞さないという警告だった。

「……典型的なスラップ(威嚇)訴訟の準備ね」
 透子がその紙面を冷ややかな目で見つめる。
「相手を怯えさせて、口を塞ぐのが目的。事実関係の正誤なんてどうでもいいの。『お前を社会的に抹殺できるぞ』っていう脅しよ」

 彼女の手は震えていなかった。かつてはその「脅す側」の論理の中にいた彼女だからこそ、敵の手の内が透けて見えるのだという。
「湊くん、これには反応しちゃダメ。向こうは私たちが慌ててボロを出すのを待ってる」
「でも、無視していいのかい?」
「無視はしない。ただ、踊らされないだけ。……大丈夫、想定内よ」

 透子はそう言ったが、午後になると、今度は市役所の担当者がやってきた。
「湊さん、困りますよ。住民から『騒がしい』って苦情が入ってるんです。このままでは、管理委託の見直しも検討せざるを得ません」
 かつては友好的だった担当者の、冷徹な事務口調。

 外堀が、確実に埋められていく音がする。
 地質調査の不正という「真実」よりも、図書室が「迷惑施設」になったという「事実」の方が、行政にとっては重いのだ。
 僕はカウンターの下で拳を握りしめた。これが、組織と戦うということ。個人の正義なんて、巨大なシステムの力学の前では、あまりに無力だ。