七月七日、火曜日。七夕。
例年なら、商店街から譲ってもらった笹を飾り、子供たちの短冊でカラフルに彩られる図書室の入り口も、今年はひっそりとしていた。
それでも、僕は小さな笹を一本だけ、カウンターの隅に飾ることにした。伝統を絶やすことは、敗北を認めるような気がしたからだ。
「短冊、書かないの?」
閉館作業を終えた透子が、色とりどりの紙の束を指差す。
「書くよ。透子は?」
「私はもう書いた。……『美味しいビールが飲めますように』ってね」
彼女は照れ隠しのように笑ったが、その短冊の裏に『この場所が守れますように』と小さく書いてあるのを、僕は見て見ぬふりをした。
夜、返却ポストを確認しに行くと、底の方に一冊の文庫本が落ちていた。
貸出履歴のない、古びた詩集だ。不思議に思ってページをめくると、栞紐の挟まれたページに、見覚えのある付箋が貼られていた。
『号砲は聞こえました。でも、狼煙(のろし)を上げた代償は大きいでしょう』
丸文字に近い、けれど芯のある筆跡。潮里(しおり)だ。
彼女はずっと見ている。僕たちが新聞沙汰になり、批判を浴び、それでもここに立っていることを。
付箋の下には、こう続けられていた。
『次の新月、南の倉庫で。……星は見えなくても、水脈は繋がっています』
「湊? どうしたの?」
透子の声に、僕はハッと顔を上げる。
「……彦星と織姫は、一年一度しか会えないけれど」
僕は詩集を胸に抱き、夜空を見上げた。
「僕たちの『青の糸』と『赤の糸』は、ようやく結び目を作ろうとしているみたいだ」