YMO世代の気持ち -ノベル館-

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第103話:赤煉瓦の亡霊

日曜日。
 新月まであと二日。僕と透子は、潮里から指定された場所の下見に向かった。
 図書室から徒歩二十分。再開発エリアの南端に位置する「南倉庫群」。明治時代に建てられた赤煉瓦の倉庫は、周囲を高層ビル用のフェンスに囲まれ、時代に取り残された亡霊のように佇んでいる。

「……警備員は正門に一名。裏口はセンサーのみ。カメラは二箇所ね」
 日傘の下で、透子が鋭い視線を巡らせる。彼女の横顔は、完全に仕事モードだ。
「火曜日の夜、新月で月明かりはない。侵入ルートはこのフェンスの裂け目しかないわね」

 熱気が陽炎のように揺らめき、赤煉瓦を歪ませて見せる。
 潮里はなぜ、こんな場所を指定したのだろう。
 単に人目を避けるためなら、他にも場所はあるはずだ。わざわざ「取り壊し予定」の、しかも「再開発の象徴」のような場所を選んだことには、必ず意味がある。

「ねえ、湊」
 透子がフェンスに指をかけ、錆びついた看板を見上げた。
『建設予定地:ウォーターフロント・タワー・イースト』
「この倉庫、昔は何に使われていたか知ってる?」
「確か……、海運会社の備蓄庫だよ。輸入品とかを一時的に保管していたはず」
「そう。でも、もっと前はね」
 透子は声を潜めた。
「戦時中、ここは『地図に載っていない物資』を隠す場所だったっていう都市伝説があるの。……潮里さんが見せたいのは、今の不正だけじゃなくて、この土地がずっと隠してきた『体質』そのものなのかもしれない」

 背筋に冷たいものが走った。
 赤の糸。それは血の色であり、錆の色であり、歴史の断層の色だ。
 僕たちは火曜日、この亡霊の腹の中へと飲み込まれることになる。