木曜日。図書室の金庫の中に、あの「赤い図面」が眠っている。
それはまるで、時限爆弾のようだった。
これを公表すれば、間違いなく工事は止まる。しかし、それと同時に、潮里さんの身元が割れ、彼女の平穏な生活は破壊されるだろう。
さらに、すでにマンションを購入予約している人々や、補償金を当てにしている住民たちの怒りも爆発する。
真実は、人を救うとは限らない。時には、多くの人の夢を殺す刃になる。
その重みが、僕の胃をキリキリと締め上げた。
「……顔色が悪いわよ、湊くん」
透子が心配そうにアイスコーヒーを差し出す。
「正義の味方になるって、もっとスカッとするもんだと思ってた?」
「ああ。……こんなに苦い味がするとは思わなかったよ」
僕は窓の外を見る。
建設予定地には、巨大なクレーンが空を突き刺すように立っている。あそこで働く人々にも家族がいる。生活がある。
僕が引こうとしている引き金は、彼らの生活をも撃ち抜くのだ。
「でもね」透子が呟く。「嘘の上に建てた城は、いつか必ず崩れる。その時、下敷きになる人を減らすのが、今の私たちにできる唯一のことじゃない?」
信号は赤。
まだ渡れない。渡ってはいけない。
僕たちは、手に入れた真実をどう使うべきか、その「覚悟」を試されていた。
ただ闇雲に叫ぶのではなく、最も効果的に、そして被害を最小限にするための戦略が必要だ。
白の糸(敵)は巨大だが、その足元には確実に亀裂が入っている。