YMO世代の気持ち -ノベル館-

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第112話:切り札は、まだ伏せておく

火曜日。連日の猛暑で、街路樹の葉もぐったりと垂れ下がっている。
 僕たちは開店前の図書室で、作戦会議を開いていた。テーブルの上には、工藤先生の「鑑定書(白)」と、潮里さんの「赤い図面(赤)」、そして現場の「動画」が並んでいる。

「全部まとめてメディアに送りつけるのは下策よ」
 透子は冷静に分析する。
「一度に全部出せば、相手は『捏造だ』と言って全力で潰しにかかる。情報は小出しにして、真綿で首を絞めるように追い詰めるの」

 彼女のプランはこうだ。
 まず、一番客観性の高い工藤先生の『鑑定書』だけを公開する。それも、大手メディアではなく、あえて地域住民向けの「図書室だより・号外」として、僕たちの手で配る。   「『権威ある学者が警鐘を鳴らしている』という事実だけを広めるの。そうすれば、住民の中に不安の種が芽生える。デベロッパーがそれを否定したタイミングで、次のカード(動画)を切る」

 なるほど。相手の出方を見ながら、カウンターを合わせるわけだ。
 僕の手元にある「赤い図面(過去の隠蔽)」は、最後のジョーカーとして温存する。

「湊くん、これは『広報戦』よ。派手な花火を上げるんじゃなく、みんなの井戸端会議の話題にするの」
 透子の目は、かつてクライアントを説得していた時と同じ光を帯びていた。
 頼もしいけれど、少し怖い。人を操るような手口に、僕の「青の糸(良心)」が少しだけチクリと痛む。
 でも、綺麗事だけで守れる段階はもう過ぎたのだ。