木曜日。反応は、予想とは違う形で現れた。
昨日あれだけビラを配ったにも関わらず、市役所からもデベロッパーからも、抗議の電話一本かかってこないのだ。
その代わり、南側の工事現場のフェンスが、一夜にしてさらに高く補強され、中を覗くことが完全にできなくなっていた。
「……完全無視、そして隠蔽の強化」
透子が窓からその高い壁を睨む。
「私たちが騒げば騒ぐほど、彼らは貝になるつもりね。『相手にする価値もないデマ』という扱いをして、風化を待つ作戦よ」
不気味な静けさだ。
怒鳴り込んできてくれた方が、まだマシだったかもしれない。
無視されるというのは、存在そのものを否定されることだ。社会という「白の糸」が、僕たちを異物として包み込み、無害化しようとしている。
「焦っちゃダメ」
僕の焦燥を読み取ったのか、透子が言った。
「種は蒔いたわ。水面下で根は伸びてる。……ほら、見て」
彼女が示したスマートフォンの画面。SNSのローカルな掲示板で、昨日のビラが画像付きで話題になり始めていた。
『工藤教授の名前が出てるってマジ?』
『うちの爺ちゃんも、昔あそこは沼だったって言ってた』
小さな、けれど確実な火種。
彼らが沈黙を守れば守るほど、その不自然さが人々の想像力を掻き立てる。
僕たちの戦いは、持久戦の様相を呈してきた。