YMO世代の気持ち -ノベル館-

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第114話:沈黙という名の回答

木曜日。反応は、予想とは違う形で現れた。
 昨日あれだけビラを配ったにも関わらず、市役所からもデベロッパーからも、抗議の電話一本かかってこないのだ。
 その代わり、南側の工事現場のフェンスが、一夜にしてさらに高く補強され、中を覗くことが完全にできなくなっていた。

「……完全無視、そして隠蔽の強化」
 透子が窓からその高い壁を睨む。
「私たちが騒げば騒ぐほど、彼らは貝になるつもりね。『相手にする価値もないデマ』という扱いをして、風化を待つ作戦よ」

 不気味な静けさだ。
 怒鳴り込んできてくれた方が、まだマシだったかもしれない。
 無視されるというのは、存在そのものを否定されることだ。社会という「白の糸」が、僕たちを異物として包み込み、無害化しようとしている。

「焦っちゃダメ」
 僕の焦燥を読み取ったのか、透子が言った。
「種は蒔いたわ。水面下で根は伸びてる。……ほら、見て」
 彼女が示したスマートフォンの画面。SNSのローカルな掲示板で、昨日のビラが画像付きで話題になり始めていた。
 『工藤教授の名前が出てるってマジ?』
 『うちの爺ちゃんも、昔あそこは沼だったって言ってた』

 小さな、けれど確実な火種。
 彼らが沈黙を守れば守るほど、その不自然さが人々の想像力を掻き立てる。
 僕たちの戦いは、持久戦の様相を呈してきた。