YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

第117話:空からの視線、日曜日の羽音

日曜日。
 昨日の田原さんの言葉が棘のように胸に残ったまま、僕は庭の草むしりをしていた。
 暑い。汗が目に入って沁みる。

 ブーン、という低い羽音が聞こえた。
 最初はスズメバチかと思ったが、その音はもっと硬質で、一定のリズムを刻んでいた。
 顔を上げると、図書室の屋根の少し上、夏空を背景に黒い物体がホバリングしているのが見えた。
 ドローンだ。

「……趣味の空撮にしては、随分と滞空時間が長いわね」
 いつの間にかベランダに出ていた透子が、サングラス越しに空を睨んでいる。
「カメラのレンズ、こっち向いてる。……偵察ね」

 誰が? デベロッパーか? それとも興味本位の動画配信者か?
 どちらにせよ、僕たちの聖域が空から覗かれているという事実は、不快を通り越して恐怖だった。
 物理的な壁は作れても、空からの視線は防げない。

「湊くん、見てて」
 透子は不敵に笑うと、ドローンに向かって大きく手を振り、さらにはスマートフォンを取り出して逆撮影を始めた。
「『撮られて困ることはない』って堂々としてればいいの。コソコソ隠れると、向こうの思う壺よ」

 数分後、ドローンは諦めたように、建設現場の方角へと飛び去っていった。
 「見ているぞ」という無言のメッセージ。
 赤の糸(潮里)が警告していた「代償」が、いよいよ形を帯びてきた。
 僕たちは、ガラス張りの部屋で暮らしているようなものだ。一挙手一投足を、誰かに値踏みされている。