火曜日。駅前の看板の効果は絶大だった。
図書室に来る利用者たちの話題も、「工事がうるさい」から「どんな公園ができるのか」へと変わりつつある。人間は、不安な真実よりも、心地よい嘘を信じたがる生き物なのだ。
「……悔しいけど、見事な広報戦略ね」
透子がタブレットで、デベロッパーが開設した特設サイトを睨んでいる。
そこには『100年安心』というキャッチコピーが踊り、著名な建築家や環境評論家が笑顔でインタビューに答えていた。
「僕たちの撒いたビラなんて、この圧倒的な『光』の前ではゴミ同然だ」
僕が弱音を吐くと、透子はバタンとタブレットを伏せた。
「光が強ければ、影も濃くなる。湊くん、彼らは一つだけミスをしてるわ」
「ミス?」
「『現在』を見せていないことよ。サイトにあるのは全て完成予想図(CG)と未来の話だけ。今の現場の写真が一枚もない」
透子はニヤリと笑った。その笑顔は、頼もしいと同時に、獲物を狙う肉食獣のようでもあった。
「彼らが隠したい『現在』を、私たちが補完してあげるの。……あのポンプの動画、使うわよ」
「でも、メディアは取り合ってくれないだろう?」
「メディアには頼らない。彼らの土俵に乗っかるのよ。『#セーフティ・グリーン・プロジェクト』。このハッシュタグをジャックして、あの泥水を吸い上げる動画を流す」
検索した人が、綺麗なCGの隣に、ドロドロの現場映像を見ることになる。
それは「青の糸(透子の知略)」が導き出した、最も意地悪で、最も効果的なゲリラ戦だった。
信号は青。僕たちは正規軍じゃない。野良犬には野良犬の戦い方がある。