YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

第120話:水曜日のハッシュタグ、泥の拡散

水曜日。決行の日。
 お昼の12時。人々がスマホを見る時間帯に合わせて、透子が編集した動画をSNSに投稿した。
 タイトルは『グリーン・プロジェクトの知られざる舞台裏:地下からの叫び』。
 タグには、デベロッパーが巨額の広告費を投じて拡散させている『#セーフティ・グリーン・プロジェクト』をそのまま引用した。

 動画の中身はシンプルだ。
 不気味に響くポンプの重低音。黒いパイプから吐き出される大量の泥水。そして、最後に工藤教授の鑑定書の一文がテロップで流れる。
 『この水脈を断てば、地盤は呼吸を止める』

 反応は、じわじわと、しかし確実に現れた。
 『え、これ今の現場?』
 『CGと全然違うじゃん』
 『この音、夜中に聞こえるやつだ』

 綺麗な広告を見ようとした人々の目に、強制的に「現実」が飛び込んでいく。
 夕方、図書室の電話が鳴った。非通知だ。
 受話器を取ると、無言のまま数秒、そしてカチャリと切れた。

「……向こうも気づいたみたいね」
 透子が涼しい顔で言う。
「これで私たちは、無視できない『異物』になった。さあ、次はどう出てくるかしら」

 夜、潮里(しおり)から短いメッセージが届いた。
 『地下の水位が下がっています。井戸が枯れ始めました。急いで』
 赤の糸が、悲鳴を上げている。
 ネット上の数字遊びではない。現実の足元が、刻一刻と崩れ始めているのだ。