水曜日。決行の日。
お昼の12時。人々がスマホを見る時間帯に合わせて、透子が編集した動画をSNSに投稿した。
タイトルは『グリーン・プロジェクトの知られざる舞台裏:地下からの叫び』。
タグには、デベロッパーが巨額の広告費を投じて拡散させている『#セーフティ・グリーン・プロジェクト』をそのまま引用した。
動画の中身はシンプルだ。
不気味に響くポンプの重低音。黒いパイプから吐き出される大量の泥水。そして、最後に工藤教授の鑑定書の一文がテロップで流れる。
『この水脈を断てば、地盤は呼吸を止める』
反応は、じわじわと、しかし確実に現れた。
『え、これ今の現場?』
『CGと全然違うじゃん』
『この音、夜中に聞こえるやつだ』
綺麗な広告を見ようとした人々の目に、強制的に「現実」が飛び込んでいく。
夕方、図書室の電話が鳴った。非通知だ。
受話器を取ると、無言のまま数秒、そしてカチャリと切れた。
「……向こうも気づいたみたいね」
透子が涼しい顔で言う。
「これで私たちは、無視できない『異物』になった。さあ、次はどう出てくるかしら」
夜、潮里(しおり)から短いメッセージが届いた。
『地下の水位が下がっています。井戸が枯れ始めました。急いで』
赤の糸が、悲鳴を上げている。
ネット上の数字遊びではない。現実の足元が、刻一刻と崩れ始めているのだ。