YMO世代の気持ち -ノベル館-

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第123話:八月の檻、蝉時雨のノイズ

八月一日、土曜日。
 カレンダーをめくると、そこには真っ青な海と空の写真があった。けれど、現実の窓の外にあるのは、熱気で歪んだコンクリートと、耳を劈(つんざ)くような蝉の大合唱だ。

 僕たちは「檻」の中にいた。
 葛西という男が置いていったあの写真──僕たちが不法侵入した証拠──が、見えない鎖となって手足を縛っている。
 もし僕たちが新たな情報をリークすれば、即座にあの写真は警察に渡り、潮里(しおり)さんの人生が終わる。
 かといって、沈黙を続ければ、工事は「安全宣言」の傘の下で強行されるだけだ。

「……見事なチェックメイトね」
 透子がカウンターで頬杖をつき、氷が溶けて薄まったコーヒーを回している。
「攻めれば仲間が死ぬ。守れば街が死ぬ。典型的な人質戦術よ」

 図書室には、涼を求める子供たちが数人いるだけで、静まり返っている。
 この静寂が、今は恐ろしい。僕たちが黙っている一秒一秒の間にも、地下のポンプは泥水を吸い上げ、地盤をスカスカにしているのだから。

「何か、抜け道はないのかい?」
「探してる。……でも、葛西って男、隙がないわ。あの写真は切り札(ジョーカー)だけど、彼自身は手を汚さず、いつでも『匿名通報』できる位置にいる」

 八月の太陽が、ジリジリと屋根を焼く音がする。
 僕たちは汗ばむ手で、何も書かれていない真っ白なノートを見つめていた。
 言葉を奪われるというのが、これほど苦しいことだとは。