日曜日。
気晴らしに外の空気を吸おうと庭に出たが、それは間違いだった。熱風がドライヤーのように吹き付け、呼吸をするだけで肺が熱くなる。
フェンスの向こう、建設現場のクレーンがゆっくりと旋回しているのが見えた。
彼らは日曜日も休まない。工期を短縮し、既成事実を積み上げるために、猛スピードで「未来」を組み立てている。
「湊さん、こんにちは。……顔色が優れませんね」
声をかけてきたのは、常連の松代さんだった。彼女は日傘をさし、心配そうにこちらを見ている。
「この暑さですからね。松代さんも気をつけて」
「ええ。でもね、湊さん」
彼女は少し声を潜めた。
「最近、夜中に地面から変な音がするのよ。ズズズッて、腹の底に響くような。……私の気のせいかしら?」
ドキリとした。
それは気のせいではない。地盤が沈下し、歪みが生じている音だ。住民たちの肌感覚は、機械よりも敏感に異常を察知し始めている。
「……気のせいじゃないかもしれません。でも、今はまだ」
僕は言葉を濁した。
「証拠があります」と言いたい。「逃げてください」と言いたい。
でも、その言葉が潮里さんへの引導になってしまう。
「そう。……貴方が言えないことがあるなら、無理には聞かないわ」
松代さんは何かを察したように、優しく微笑んだ。
「でも、時計の針は止められても、時間は止められないのよ。いつか必ず、溜まったツケは回ってくるわ」
彼女が去った後、僕は握りしめた拳の中で、じっとりと汗が滲むのを感じた。
僕たちが沈黙している間にも、街は悲鳴を上げている。