月曜日。
朝、透子が血走った目で事務室から出てきた。
「一晩中考えたわ。正面突破がダメなら、迂回するしかない」
彼女は一枚の地図を広げた。再開発エリアだけでなく、隣接する古い住宅街も含めた広域地図だ。
「葛西の狙いは『再開発エリア内の工事』を止めさせないこと。そして『潮里さんという内部協力者』を封じること。……なら、土俵を変えればいい」
彼女の指が、エリアの外側、僕たちの図書室や、松代さんの家がある地域を指した。
「水脈は繋がってる。工事現場の水を抜けば、その影響は必ず『外側』に出る。エリア外の井戸枯れや、家屋の傾きを調査するの」
「なるほど……!」
僕は膝を打った。
「内部告発(赤の糸)」を使うから人質を取られるのだ。
外部で起きている「被害事実(白の糸)」だけを集めて、それを根拠に工事の差し止めを請求するなら、潮里さんの身元は関係ない。
「地味な作業よ。一軒一軒回って、井戸の水位を測り、壁のヒビ割れを探して回る。……『被害者の会』を結成するための、地道なドブ板選挙みたいなもんね」
透子の目に、光が戻っていた。
完全な解決策ではない。潮里さんを救える保証もない。
けれど、「何もできない」という絶望からは抜け出せる。