水曜日。調査二日目。
僕たちは、商店街の外れにある豆腐屋「豆蔵」を訪ねた。ここは昔ながらの製法を守り、地下水を使って豆腐を作っている老舗だ。
店主の源さんなら、水の変化に一番敏感なはずだ。
「……ああ、やっぱり聞きに来たか」
源さんは、僕たちの顔を見るなり、苦虫を噛み潰したような顔で奥から手招きした。
案内されたのは、店の裏手にある井戸だ。
「見てみな。水位が二メートルも下がってらあ」
源さんが投げ込んだ石が、水面に落ちるまでの時間が妙に長く感じられた。
「味が変わったんだよ。泥臭くなったというか、鉄の味が混じるようになった。……これじゃあ、売り物の豆腐は作れねえ」
彼の悲痛な声は、僕の胸を締め付けた。
開発という名の巨人がストローで大地を吸い尽くし、そのしわ寄せが、こうして真面目に生きる人々の生活を脅かしている。
「源さん、この水位の記録、貸してもらえますか?」
「ああ、持ってけ。俺も還暦過ぎて喧嘩はしたくねえが、商売道具を汚されちゃあ黙ってらんねえ」
手渡された大学ノートには、毎日の水位と水温が几帳面な字で記されていた。
それは、どんな学者の論文よりも雄弁な「被害届」だった。
信号は青。僕たちの手元に、確かな「武器」が集まりつつある。