YMO世代の気持ち -ノベル館-

YMO世代の気持ちのサブブログです。

第128話:黒い車の影、恐怖の学習

木曜日。調査を続ける僕たちの背中に、視線が張り付くようになった。
 最初は気のせいだと思っていた。でも、違う。
 僕たちが住宅街を歩いていると、少し離れた場所を、黒いセダンがゆっくりと並走しているのだ。
 中が見えないスモークガラス。ナンバープレートは泥で汚れていて読みにくい。

「……無視して。振り返っちゃダメ」
 透子が僕の腕を強く掴む。その指先が震えているのが伝わってくる。
「あれは『見ているぞ』というアピールよ。私たちが何をしているのか、彼らはとっくに把握している」

 葛西の手の者だろう。
 直接的な妨害はしてこない。ただ、影のように付きまとい、こちらの精神を摩耗させる。
 「お前たちの弱み(写真)は握っているんだぞ」という無言の圧力が、夏の湿気と共に肌にまとわりつく。

 恐怖は学習する。
 車のドアが閉まる音、誰かの足音、電話のベル。
 日常の些細な音が、すべて警告音のように聞こえてくる。

「……帰ろう、湊くん。今日はこれ以上、精神が持たない」
 夕暮れ時、逃げるように図書室へ戻った。
 鍵をかけ、カーテンを閉め切った部屋で、僕たちは荒い息を吐いた。
 外ではヒグラシが鳴いている。そのカナカナという声が、急かされるカウントダウンのように響いた。