YMO世代の気持ち -ノベル館-

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第131話:日曜日の亡霊ごっこ

日曜日。世間はお盆休みに入り、街の空気はどこか弛緩している。
 しかし、僕たちの図書室の周りだけは、相変わらず見えない有刺鉄線が張り巡らされているようだ。

 例の黒いセダンは、今日も定位置にいる。
 だが、透子の読み通り、中の人間の気配がいつもと違う。いつもの鋭い視線の男ではなく、少し若くて落ち着きのない男がハンドルを握り、頻繁にスマホをいじっているのが見えた。
「……バイトね。あるいは下っ端の交代要員」
 透子がブラインドの隙間から覗き見ながら、ニヤリと笑う。
「正規のプロはお盆休み。今の彼なら、私たちの『撹乱』に気づかないかもしれない」

 僕たちは「亡霊作戦」を実行することにした。
 といっても、やることは単純だ。僕と透子が別々の出口から出て、複雑な路地裏を使って相手を撒き、監視の死角となる場所で落ち合う。それだけだ。
 だが、この一ヶ月間、常に背中に視線を感じていた僕たちにとって、それは「自由」を取り戻すための大冒険だった。

 僕は裏口から出て、わざと大回りに商店街を歩く。若い監視役は慌てて車を降り、徒歩で尾行してくる。
 その隙に、透子がメインの入り口から堂々と出て、反対方向のバスに乗る。
 僕は商店街の雑踏に紛れ、馴染みの酒屋の裏口を通り抜けて、監視役を巻いた。

 三十分後。
 隣町の喫茶店の奥の席で、僕たちは合流した。
「……やったわね」
「ああ。久しぶりに、背中が軽いよ」
 ただの喫茶店のアイスコーヒーが、祝杯のシャンパンのように美味しく感じられた。

 僕たちはここで、誰にも聞かれずに作戦会議をする。
 家でも、図書室でもない場所。
 監視社会の隙間に見つけた、わずかなエアポケット。
 くだらない「かくれんぼ」だが、僕たちは久しぶりに、腹の底から笑い合った。