水曜日。信号が青になる。
明日からお盆休み(図書室は開けるけれど)ということもあり、街は少し浮足立っている。
だが、僕の心臓は昨日のメモのせいで、早鐘を打ったままだ。
『14日の深夜2時』
これは罠か、それとも救いの手か。
透子に相談すると、彼女はしばらくレシートを眺め、静かに言った。
「筆跡が、若い。……それに、震えてるわね」
彼女のプロファイリングによれば、書いたのは現場の末端作業員。良心の呵責か、あるいは現場への恨みか。
「ポンプが止まれば、地下の水位は一気に戻ろうとする。その時、地盤に何が起きるか……彼らはそれを『実験』しようとしているのかもしれない」
「実験?」
「ええ。お盆で人がいない深夜に、こっそりと限界値をテストする。もしそうなら、そのデータこそが『施工記録』そのものよ」
夕方、図書室の玄関先に小さな迎え火を焚いた。
ゆらゆらと揺れる炎を見つめながら、僕は思う。
お盆は、死者が帰ってくる日だ。
でも今年帰ってくるのは、懐かしい祖父母の霊だけではないかもしれない。
この土地が隠してきた「過去の亡霊」たちもまた、煙に乗って地上に這い出してこようとしている。
パチパチと爆ぜる火の粉が、まるで導火線のように見えた。
決行は明後日の深夜。
僕たちは、亡霊と面会する準備を始めた。