月曜日。お盆休みが明け、日常が戻ってきた。
午前八時。工事現場からは、いつも通りの轟音が響き渡り始めた。
重機が動き、ダンプカーが出入りし、警備員が立っている。
まるで、一昨日の深夜に大地が悲鳴を上げ、泥が噴き出したことなど「なかったこと」のように。
「……すごい修正力ね」
透子が窓から現場を見下ろして呟く。
「あの惨状を一晩で整地して、何食わぬ顔で作業を再開してる。組織っていうのは、不都合な記憶を消去する機能だけは一流だわ」
駅前の看板には、相変わらず『100年安心』の文字が輝いている。
通勤する人々は、その看板の下を足早に通り過ぎていく。誰も、足元の地面が腐りかけていることになんて気づかない。
この「変わらない日常」こそが、最大の暴力だと感じた。
だが、今の僕たちは違う。
あの看板の裏側にある、ドロドロとした本性を知っている。その証拠を持っている。
「湊くん、準備はいい?」
透子が振り返った。
「葛西に見せるのよ。私たちが握っているカードを。……ただし、全部は見せない。チラつかせて、彼を交渉のテーブルに引きずり出す」
もはや、こそこそと逃げ回るフェーズは終わった。
信号は青。
僕たちは、あの「泥の映像」を懐に忍ばせ、仮面を被った日常へと踏み出した。